「彼氏欲しくない?」

唐揚げを頬張る恵。

「ちょうど課題も終わって一段落ついたし、里奈も作ろうよ」

恵は背が高くすらっとしていて、目鼻立ちがはっきりした美人顔。会話の節々からは常に彼氏がいるようだった。男が放っておかないだろうと納得だ。今の彼氏は渋谷のクラブで働いているという。

東京に来てから目覚める度に、「ここはどこ」という錯覚をする。慣れないワンルームは寂しく、祐介が夢に出てくるたびに苦しさが増した。今の状況を変えるためにも、新しい出会いを求めることは良いことかもしれない。

「うん! 私も彼氏作りたい」

恵はまだ東京へ来たばかりの私を渋谷へ連れ出してくれた。

「ねえ里奈、彼氏がサービスしてくれるから友達つれて来なよって言ってるんだ。一緒に行かない?」

「それってクラブだよね? 行ってみたいけど、私こんな格好で大丈夫?」

「大丈夫だよ! 派手な子とか露出多い子も多いけど気にしないで」

田舎から出てきたばかりの私には渋谷のクラブは未知の世界であり、派手な格好をした男女が楽しんでいるイメージだ。場違いなのではと躊躇いもあったが、恵が一緒にいることで安心していた。

週末の渋谷は人で溢れかえっている。どこに向かうにしても人をかき分けて歩かなければならない。それすら私にとっては初体験であり、「ここが渋谷か」と高いビルを見上げながら辺りを見回してしまった。一気に気持ちが昂る。

ファミレスで夕飯を済ませると二十三時頃クラブに到着した。クラブは足元からの振動に心臓も揺らされているかのようだ。荷物はショルダーバッグ一つにまとめていたのでロッカーに預けなかった。中に入ると真っ暗な道を恵は事もなげに進んで行く。私は置いていかれないようにあとを追った。

VIP席の目の前で立ち止まったと思うと、すでに座っていた男女数名のうち一際目立つ金髪の男がこちらに気づき話しかけてきた。

「恵! こっちこっち。隣は友達?」

「わたしの大学の友達の里奈。可愛いでしょ! みんな仲良くしてね!」

「俺、大輔! よろしく〜」

大輔が手を出してきたので私も手を出すと、力強く引っ張られるように握られた。

「わたしの彼氏の大輔。仲良くしてね」

「うん、よろしくお願いします」

小さくお辞儀をすると「礼儀正しいね」と大輔は手を離してくれた。正直なところ、こんな軽そうな男が恵の彼氏なんて恵はどうかしていると思ってしまった。恵はまだ成人してないのにお酒を飲んでいるし……そう思ったところで未成年の私もクラブに入っているのだから、大学生なんてこんなものかと前言撤回だ。

さすがにアルコールを飲むのは気が引けて、誰かが頼んでいたウーロン茶が手を付けられていないのを見て、自分の手元に引き寄せた。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『拝啓、母さん父さん』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。