【前回の記事を読む】コンサート後、3人の語らい「この曲のタイトル、どう思う?」

真理の『弦楽四重奏曲第四番』の感想に…

「さっきおっしゃってた寄せては返す波の音ですけど、わたしに聞き取れた限りでは寄せては返す波のイメージは第一楽章で一番はっきり出ていたのではないかな。このあたりではすごく不安感をかきたてられるというの、そのほうが強くなってしまって、心が浄化されるとか、さみしいけれど魂が清められる夜を味わうというような気持ちにはなれなかったわ。

でもこの曲って、後半に入ってからは寄せては返す波のイメージで人の心をかき乱すような音調というの、それがなくなっていって明るさと暗さの対立などもなくなっていくようで、そこから浄化された魂というか清められた神への帰依の心を得るというの、そのような道筋だったらわたしにも少しわかる気がする。

そういうことではわたしたち、今日はシェーンベルクの弦楽四重奏曲を聞くことができたおかげで、少しは心をきれいにしてもらえたのかもしれないわね。

今日聞かせて貰ったのって無調音楽の代表例で五重奏に編曲されたほうよね。いつもわたしたちって話し合って最後あたりで演奏家の評価をするんだけど、今日のはわたし、生で初めて聞いた曲なの。

それにこれまで無調音楽のあれこれをほとんど聞いたこともなかったし、今日の演奏家について何か言うのはパス。上手に全員で合わせている感じはしたけれど、演奏全体が上手だったのか下手だったのかとか、シェーンベルクの音楽魂に入り込んで演奏したのだろうかとか、そこまでは判断できないもの。

こんなこと言うと笑われそうなんだけど、演奏を褒めたらいいのか貶せばいいのか迷ってるうちに今日の演奏家のコスチュームに関心がいってしまったのよね。

男性三人は無難に黒の燕尾服でまとまっていたけれど第一バイオリンと第二バイオリンの女性二人の着ているものがとても派手な原色でそれも大変違ったカラーのものだから男性陣の黒と全然合ってないっていうの、そんなこと考えてたら曲が終わってしまった。

これって演奏曲もウィーンで初演された時はオリジナリティーに溢れるものだったろうし、それを当て込んで今日の衣装もサイケ調でどんどん行けって方向で、調和しないのをむしろ目指したのかな?

それとも男性陣の地味な黒に対して目立ちたいという気持ちを込めたのとか、女性陣は赤からイエローグリーンまで明るい派手な配色で、コントラストでの統一をめざしたのとか、今日はコスチュームのほうばかりに興味がいってしまって、そのほうで楽しめた感じだった」