瞳が光を放つ。

男の額に当てていた掌の「何か」を開き、恭子の中で押さえていた「力」が解放される。

指の爪が鷹の鉤爪の様に伸び、手袋が裂け、男のこめかみにその鋭利な爪が突き刺さった。

男のこめかみから血が吹き出す。

「ぎゃあぁぁ!」

男は仰け反った。

恭子の手は、男の額に吸い付いたように、離れない。掌の血管が浮き出て、脈動する。

ドクッ

ドクッ

恭子の手が何かを飲み込んでいるように、それは見えた。

男の身体は硬直したように動かない。開いたままの口から、うめき声と唾液がこぼれ出る。

皮膚がみるみる張りを失い、乾いたミイラの皮みたいに変貌へんぼうしていった。まるで弾力を失った風船がしぼむように。

男の体重が軽くなったように感じ、恭子は男を横に押しのけた。

荒い息を吐きながら、地面に横たわる男を見る。目の細いその男は、微かな呻き声を上げている。

動揺している恭子は、もう一人別の男が近づいて来ているのに気付かなかった。

「その男の処理はこちらでします」

突然届いてきた声に、恭子ははだけた胸元を押さえ、声の方を見た。

そこには恰幅の良い中年の男が、黒いスーツを着て立っていた。大きな福耳で、首の肉がワイシャツの首元から溢れそうだ。目を開けているかも判らない程細い目をしたその男は、恵比寿様の様な顔つきだ。

何処から現れたのだろう。

何時から私を見ていた?

襲われているのに、助けようともしなかったの?

「伊弉弥恭子さん」

男はそう言いながら、ゆっくり近づいて来た。

何故この男は私の名前を知っているのだろう。

疑問に思っているうちに、男は恭子の側まで来て、姿勢を低くした。

「その能力をコントロールしたいとは思いませんか?」

男と目が合う。恭子にとってそれは、今、一番の願いだ。無意識にこくりとうなずいた。

何故この男が自分の能力の事を知っているのかと疑問に思う事さえも失念していた。自分が日頃から思っていた願いを、男がそのまま言葉として発した為、身体が自然に反応してしまった。

「それでは、その能力の訓練をしましょう。後日、準備が出来たらこちらからご連絡いたします」

そう言って、男は立ち上がった。

「あ、そうでした。その格好では家に帰れませんね。あちらの車に着替えを用意しています。着替えて下さい」

恭子は不審に思いながらも、胸元を押さえたまま立ち上がった。

※本記事は、2021年8月刊行の書籍『スキル』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。