入学式の司会は開学時から久船が担当していたので、村山学校長の式辞を含めてすべてがスムーズに終えることができたことに関係者は安堵の胸をなで下ろした。もちろん、入学式には来賓の方々が来られ、尾因市長、尾因市歯科医師会長、尾因市薬剤師会長等が祝辞を述べられた。これら来賓の一部の方はお祝い金を持参しており、国田に直接手渡した。

入学式終了後、国田は受け取った祝い金の処理について村山に相談したところ、村山は馴れ馴れしく、「お前が受け取って学校のために使えば良い」と言われた。何気なく言ったこの言葉だが、尾因市医師会会計を通さない金の処理を許したことになり、このことが今後の学校運営上大きな禍根を残すことになるとは村山は知る由もなかった。

国田は入学式終了後に教室に新入生を入れて、教務主任としての挨拶をした。

「私が教務主任の国田です。皆さんこの度はご入学おめでとうございます。皆さんはこれからの四年間この看護専門学校で勤労学生として、働きながら学び、四年後には全員が看護師国家試験に合格して立派な看護師になって下さることを希望しております。

仕事と勉強を両立することは簡単なことではありません。一日は二十四時間、一年は三百六十五日の限られた時間内に仕事と勉強をしなければなりません。いろいろな悩みが発生するかもしれません。

困った時には、教務主任の私か担任の専任教員に遠慮なく相談して下さい。私たち専任教員は貴女たち四十人の新入生の味方であり、看護教育に使命感を持って働いていますので、どんなに些細なことでも結構ですので、いつでも相談に来て下さい。よろしくお願いします」

一般に三年課程全日制看護専門学校では、約二〜五%が卒業までに退学し、脱落すると言われている。三年課程定時制看護専門学校は全国で六校あるが、他校では十%前後が四年間で退学しているのが現状である。

当校は第一期生は四十二人、二期生は四十人入学したが四月現在では三年生三十六人、二年生は三十八人ですでに八人が退学している。このような現状からして、国田は第一期生は何人卒業できるのだろうかと、新入生への挨拶をした後に危機感を持つようになった。