そして、武術の実力を見せつける機会は直ぐに来た。吉次一行が金目のものを満載した荷駄を連ねていることを盗賊が見逃すはずがなかった。吉次の動静は街道周辺に集まった盗賊たちの当然知るところで、連携して宿を襲った。

九郎は自分のものとなった太刀を取り外の気配を読んだ。吉次の姿は見えない。護衛の者達は成り行きで九郎の周囲に集まった。僧正ヶ谷の修行は役立った。

暗闇に迫る気配を切る。賊が倒れる。下知を飛ばす声が聞こえる。その方へ素早く動く。気配、切る。倒れる。

一人が九郎の動きに合わせ微妙な距離を保っている。切り結んでは来ない。

「やるな、お前のような奴がいるという事は聞いていなかった。名はなんという」

「盗賊に名乗る気はない。だがお前は盗賊にしておくには惜しい腕だ」

「こんなことをしたくはない。俺は伊勢三郎義盛、明日会いに来る」

寄せ集めの賊たちは、頭目たちが倒れていくのを感じ、恐怖に襲われ悲鳴を上げ逃げ散った。やがて、隣の宿場に泊まっていた仲間が走りこんできた。そして何処に隠れていたか吉次も出てきた。

「賊は去ったようだな。明かりを増やせ」

照らし出されたのは、切られて呻く盗賊達であった。

「宿の主はいるか、事の次第を届け出ろ。皆、けが人と被害を調べろ、早朝に立つ」

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『小説 静』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。