【前回の記事を読む】「でもぼく、走れないし」自信のない部員が残した成果とは…!

新しいマネージャー

佑子のクラスに、新田ありすという生徒がいる。小柄で、銀ぶちの眼鏡をかけた顔を、いつも伏せている。授業では生真面目な顔を黒板に向けているけれど、例えば佑子と目が合いそうになると、さっと目を伏せる。

その横顔は、ともすれば冷たい印象さえ漂わせているのだけれど。入試の、学科試験では同学年で三位に入った高い学力があることははっきりしているのだが、どうにもコミュニケーションが取れない。四月の面談週間ではクラスの全員と一対一で話した。が、彼女とは会話が成立しなかった。全ての問いかけに、首を横に振るか頷くかで対応し、肉声を聞くことがなかったのだ。

生徒支援担当の先生が中学校訪問をして、課題を持つ生徒の一覧を作ってきてあった。鍵のかかる学年ロッカーの中に、様々な生徒の情報をまとめた書類があるのだ。その一ページに、新田ありすの名はあった。シングルマザーの家庭。でも、昨今そんな状況は珍しいものでもないし、新田さんは服装も持ち物も清潔できちんとしている。荒れた雰囲気はまったくない。

書類では、コミュニケーションに課題あり、と。発達障害の可能性もないではないが、医療へのアクセスはしておらず、診断もない。中学時代には勧められたカウンセリングも、頑なに拒絶したのだという。

「そんなの、先生側に問題があっただけでしょ」

部活は、普段通り動いている。バックスを指揮する足立くんも、フォワードをリードする保谷くんも、何だか貫禄がついてきた。小山さんが新田さんと同じ中学出身だと知って、佑子は部活中の合間を見て、彼女のことを聞いてみたのだ。ありすちゃん、中学の時どうだったの、と聞いてみただけだけれど。

「ありすはね、すっごく潔癖だしすっごく真面目だけど、色眼鏡で見られるのがヤなんだ。お父さんいなくて可哀想、なんて言われたら、絶対関係拒否るから」

「小山さん、ずいぶん理解あるんだね」

「んー、あたしの感覚で言えば、オトナの方がバカなんだね。子どもが、辛い気持ち抱えてる時にも、無神経に踏み込んで来ようとするじゃん、先生って」