その後親しくなった別の航空会社のCAやパーサーにも聞きましたが、やはり理由はわからず、いずれにしても、通常ではCAが旅客のパスポートを持っていって返さない、ということはあり得ない、そのような要求があった場合には、渡す前に、最終的には機長に確認すべきとのことでした。

この事件の原因は、会社の要望とはいえ三個の大型ジュラルミンケースに六〇キロのコーヒーを入れていたことです。私は何とか切り抜けましたが、プロジェクトの関係者はこうしたことに十分に留意しなければ、社員を窮地に追い込むこともあると思いました。

第三章 渡航先にて

ホテルにて

*気が利きすぎるベルボーイにはご注意

私が一九八一年から約二年半、インドネシア・スマトラ島・アチェ州の肥料工場建設工事作業所に勤務していたときのこと。そこへ行くにはシンガポールで一泊し、翌朝の早い便でスマトラ島第一の都市メダンへ飛ぶスケジュールとなっていました。

私は日本からの再赴任のため、予定通り、シンガポールのホテルで一泊し、早朝五時半過ぎにはチェック・アウトすべく準備をしていたところ、ちょうど荷造りが終わったときに、ドアがノックされました。

ドアを開けるとベルボーイが立っていて、荷物を取りに来たと言います。私は頼みもしないのに、とは思いましたが、前日チェック・インの際に早朝のチェック・アウトを依頼していたためかと思い、気が利くホテルだな、などと考え、スーツ・ケースを渡しました。

二十分ほどしてからロビーに行き、チェック・アウトも終わり、さあ荷物は? と見てもどこにも見当たりません。さきほどのベルボーイを見つけて「私の荷物はどこにあるのか」と聞いたところ、彼は大変驚いて「あなたは中国人の団体客ではないのか」と言うではありませんか。

そういえば同じフロア、それも隣の部屋にも中国人団体客が泊まっており、私より早く部屋を出て行ったのを知っていましたが、ベルボーイは私も団体客の一人と間違えて荷物を運び出し、私も変だとは思わずに荷物を渡したことに気が付きました。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『アテンション・プリーズ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。