【前回の記事を読む】目があっという間に充血し…「先輩が、引退する、の?」

エイトビートの疾走

十五分の休憩。日差しを避けながら次戦の展開の相談をしなさい、と部員たちを散らせた基は、佑子の横にやって来て言うのだ。

「どうしてこんなに、いい子ばっかりなんだい?」

「買ってきました! もう、最後の三袋でした!」

息せき切って、真っ赤な顔でコンビニのレジ袋を振り回すのは小山さん。この試合がマネージャーとしての初仕事で、塩分チャージのタブレットを買いに走っていたのだ。

「ご苦労さま。みんなに配ってあげてね」

どう考えても、駐車場の向こうのコンビニに行って来ただけとは思えない時間のかかり方なのだけれど、サボっていたわけではないだろうし、何軒かのコンビニをさまよったのかもしれない。息を上げながら走って来た。その一事で全ては不問に付そう。今日はノーメークだし。

愛甲高戦は、二年生が大爆発した。先発は石宮くん、榎くん、保谷くんのフォワード、佐伯くん、澤田くん、椎名くんと、ウィングに岩佐くん。まずは、相手のキックオフミスを榎くんが拾って突進し、石宮くんと保谷くんがサポート、スムーズにラインが回って岩佐くんがトライ。その後も、七人が縦横に走り回って五本のトライをあげた。

しかしながら、メンバーの中にはコンバージョンキッカーはいない。譲り合うように蹴ったものの、七人制のコンバージョンはドロップキックのせいか、キックオフは蹴れている澤田くんまで含め、全員が失敗した。

25対0のハーフタイム。これまで出番がなかったのは西崎くんだけになった。本人も、スピード勝負になること必定のセブンズだから、多分、あきらめ半分だったのかもしれない。

でも、基がその背中を叩く。

「後半、行こうか」

「でもぼく、走れないし」

「地道に正直に。きみにはそれがあるだろ」

出たいという思いも彼の中には十分にあったのだ。保土ヶ谷のグラウンドに立ってから、西崎くんはずっとヘッドキャップを握りしめていた。思いの半分は。