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サプライズプレゼント

翌日、大きな宅配便が届く。和枝は四十九歳の誕生日を間近に控えていて、遥と廉が一カ月半も前からサプライズプレゼントを準備していた。もちろんその時点では廉も和枝の病気を予想だにできなかった。

「ママのピアノ教室には看板がない」と遥が言い出し、「じゃあそれを誕生日プレゼントにしよう」ということになり、遥がデザインするステンドグラスの看板を作ってもらうことにした。

遥は中学一年生になっていた。画用紙に、まず真上から見下ろしたピアノの輪郭を描く。そしてその中にト音記号、八分音符、鍵盤を納め、最後に「CANTABILE(歌うように)」のアルファベットをうまく重ね合わせデザイン画は完成した。

製作はインターネットで探した千葉の工房に依頼し、遥の絵の中で、ステンドグラスに加工しにくい箇所を少しだけ修整してから作業に入っていた。

「ママ、開けてみて! ちょっと早く着いちゃったけど誕生日プレゼント」

遥が急かす。病状が深刻なことも、入院することも彼女にはまだ話していなかった。

早く見たくてうずうずしている遥の顔を慈しむように見ながら、和枝が包みを開けていく。作品は遥の絵が忠実に再現されていた。八色の透明のガラスと乳白色の曇りガラスがリズム良く配置され、音楽が聞こえてきそうだ。

ピアノ型の鋳物の縁にはフックが二カ所付き、チェーンの下がったアイアンアームも一緒に梱包されていて、すぐにでも玄関の外壁に吊すことができる状態になっていた。ピアノ教室の看板。和枝にとって皮肉なサプライズとなってしまった。

「こんな状況じゃなければどんなに舞い上がって喜ぶことができただろう。今すぐこれを青空にかざして『遥ありがとう!』って言えたらどんなに幸せだったろう」

和枝はそう思うと涙がとめどなくあふれてきたが、ステンドグラスを抱きしめたまま幾度も幾度も笑顔をつくろうとしていた。