第2章 そのマスク、何ですか?

【コラム】99.9%の意味

皆さんは、マスクのパッケージをじっくり見たことがありますでしょうか。ほとんどの人がパッケージの言葉に惹(ひ)かれてマスクを手に取っています。「花粉」「PM2.5」「ウイルス」「黄砂」「99.9%カット」「立体」「三次元」「フィット」などの文字。最近では、「メイクが落ちない」「香る」という文句も見かけるようにもなりました。PM2.5がきっかけとなり、マスクに求められる機能や価値観が多様化してきています。

そもそもマスクは何のためにつけるものでしょうか。体に害を与えるウイルスや粒子を体内に取り込まないようにするために、マスクを着用している場合がほとんどでしょう。

しかし現実には、普段着用しているマスクの内側に大量の粒子が入り込んでしまい、そのまま体内に取り込まれてしまっているのです。「粒子を99.9%カット」と記載されると、「そのマスクの漏れはたったの0.1%で、ほぼ空気中の粒子が体内に入ることを防げる」と人は期待してしまいます。

ところがパッケージをよく見てみると、「感染や体内への取り込みを完全に防ぐものではありません」とも明記されているのです。矛盾している? 過大広告? そうではなく、これはフィルター自体の性能(捕集効率)としては、粒子を99.9%カットしているという意味なのです。

すなわち、実際に着用した場合に、99.9%の捕集効率を発揮することは難しいのです。それは、着用した際にできるマスクと顔との隙間から、外側の粒子がマスクの内側へ入り込んでしまうからなのです。「99.9%カット=体内への取り込み率」ではありません。

つまり、フィルターの性能や品質を鵜呑(うの)みにしてはダメなのです。体を守るためには、ただマスクをつけるのではなく、「正しい着用方法、そして自分の顔の大きさに合ったものかどうか」が重要なのです。花粉症の人がマスクをしているのにくしゃみをしているのは、花粉の抗原がマスク内に入り込んで、体内に取り込まれてしまっているからなのです。

2003年ごろにアスベスト・石綿の問題が話題になりました。その際、耐火物製造業の作業員が防じんマスクを着用していても、粉じんがマスク内に入り込む割合が24%に達していることが報じられ、アスベストを扱う現場も同様と考えると、マスクがじん肺の発症予防に役立っていない恐れがあることがニュースになりました(日本経済新聞2006年4月11日記事)。

このニュースをきっかけに、マスクは製品の性能以外に「マスクと顔の隙間」の問題がクローズアップされ、「マスクフィット」ということが盛んに言われるようになったのです。しかしながら、喉元過ぎれば熱さを忘れるとでも言いましょうか、マスクフィットの重要性はすでに忘れ去られてしまい、今やフィルター性能の宣伝競争になってしまっています。

それにしても、調査の結果に見たマスクの漏れ方は尋常ではありませんでした。これでは人に感染するウイルスや治癒が困難なウイルス(SARSやMERS)が流行した際、簡単に危険に身をさらしてしまうでしょう。

現に、ボランティアでエボラ出血熱の治療にあたった医師や看護師が亡くなっています。マスクだけではなく、手袋や防護服の着脱などを含めて、彼らはどのようにウイルスとの接触に対応していたのでしょうか。ただ性能の良い材料や品質保証された防護具をつけて大丈夫と思い込んでいるだけでは、身を守ることはできません。

今やマスクや防護具の技術は進んでおり、マスクの選択肢は広がっています。自分の顔に合った正しいマスクを選択し、適切に着用することで、このような事態を防ぐことは可能なのです。PM2.5という言葉が世に認識され、マスクを着用する場面が増えています。

今はまだ、マスクに漏れが生じていても、致死性は低い状況ではありますが、今こそ正しい着用方法をマスターする時機なのです。このマスクの教育こそが、将来起こり得る未知のウイルス流行や、パンデミックに対抗できる身近な武器となるのは間違いありません。

※本記事は、2019年11月刊行の書籍『マスクの品格』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。