◎変分法

ところで、どの分野の研究においても、旧来の手法を繰り返すだけでは新しい発見は望めません。それは『日本書紀』の研究においても同じです。そこで、本書はこれまでと全く異なる手法を用いて、法隆寺に関する二十四字の記述の真意を解明していきます。本書が用いる魔法のような手法は、「変分法」と呼ばれるものです。

変分法は物理や数学で用いられる理系の手法であり、古代史の研究には場違いの印象があります。しかし、本書では物理や数学のように微分方程式を古代史の究明にそのまま適用するのではなく、あくまでも変分法の考え方を『日本書紀』の分析に応用します。

物理や数学は苦手だからと敬遠される方があるかもしれませんが、変分法は決して難しいものではありません。実は、日常生活の中で誰でも変分法を使っています。

たとえば、勤務先(学校)から自宅に帰る場合を例に説明しましょう。勤務先(学校)から自宅に帰る途中で、本を買ったり、誰かに会ったり、夕食の材料を買いそろえたりと、いくつかの用事を済ませなくてはならないとします。このような場合、誰でもまずどの店に寄ろうか、どの順番(経路)で回ろうかと考えるはずです。そして、いくつか浮かんだ経路の中で、無駄なく用事を済ませることができる経路はどれになるかを比較し、最適な経路を決定するはずです。

変分法は、勤務先(学校)から自宅までの間に用事を済ませながら帰る例のように、ある目的を達成するうえで最も効果的な経路を導き出す手法なのです。物理や数学の手法といっても難しいものではありません。変分法は日常的に誰でも無意識のうちに利用している手法なのです。

この変分法という魔法のような手法は、これまでの『日本書紀』の理解を抜本的に変えるとともに、古代史の景色を一変させることになります。

なお、本書は二部構成になっています。第一部の「疑惑の大火」では、『日本書紀』の中で法隆寺が果たした重要な使命を解明してまいります。第二部の「極秘の再建」では、法隆寺再建の秘密、並びに聖徳太子の秘密を解き明かしてまいります。そして、法隆寺と『日本書紀』との間の(もつ)れた糸が解きほぐされたとき、そこには静寂の中の新しい古代史が(ひら)けています。