【前回の記事を読む】ネズミたちに一蹴された…多くの研究者が諦めた捕獲に挑むワケ

第一章 はじめに

この最初の成功から今までおよそ10年間、私は様々な捕獲具を試作し使用することによって、仕掛けに対するネズミの行動を観察し続けてきた。

豊富な餌の入った怪しげな箱がネズミのテリトリーに突然現れた場合、ネズミたちはどのように行動するのか。多くのネズミがその周りにいた場合、個体間に自由な競争があって、独占するために競争が起きるのか、それとも、なわばりを持つ集団が仲良く餌を採ろうとするのか。分らないことが多い。そもそも、単独で行動することが多いのか集団で行動することが多いのか、それすら分かっていなかった。

市販されている捕獲籠はもちろん1匹を捕獲するための物だから、侵入してきたネズミが1匹で単独行動をしている場合、そいつを捕まえればすべてが解決する。しかし、はたしてそんなに簡単なことだろうか。

当時参考書として愛読していた昭和49年発行の宇田川竜男著の『ネズミの話』には、ネズミ全般の話として、生まれて15日でもう巣を離れて独立の生活になり、親元を去っていくとある。これを信じるとすると、孤独に耐えて一人たくましく生きようとする子ネズミの姿が浮かんでくるのだが、果たしてそうだろうか。

これが本当のことなのか誰も確かめていない。野生ネズミの行動観察などできないから確かめようがないのである。

ネズミAとネズミBの区別すらできない。インターネットを利用してネズミに関する情報を検索しても、知りたいことの万分の一も得ることはできなかった。学者、研究者と呼ばれる人たちが公に認めたこと以外、どんなことであれ、信頼される情報としてネット上では扱われないからだ。

過去にこのような研究はなされていなかったということであり、一部の数少ない捕獲具研究マニアが知り得た情報も、極秘扱いされているのか表に出てこない。一から自分で確認する必要があるということになった。

次々に浮かんでくる疑問に対して仮説を立てては確認のために捕獲具の改良を行い、設置を繰り返すしかなかった。地図もなく未開の深山に足を踏み入れるようなものだが、誰も成し遂げたことが無いことに取り組んでいるという自負心と、時々ネズミの社会を垣間見る楽しさは私を夢中にさせ続けた。