【前回の記事を読む】一体何を考えているのか…捕まらないネズミの習性に立ち向かう

第一章 はじめに

ヨーロッパでは過去にペストが蔓延し、人がバタバタと死んでいったことがある。特に1346年に発生したペストでは、当時のヨーロッパの人口の3分の1が死亡し、人々を恐怖に陥れたと歴史書にある。

当時、ペストの媒介者であるネズミを駆除することは最重要課題であり、世界中の人々が人智をつくし駆除方法の開発に取り組んだはずである。国内にペストコントロール協会なる組織があって、その名前の由来になっているくらいに、歴史的に見ても人類にとってとても脅威となる災害が過去にネズミによってもたらされたのだ。

衛生面で不潔な環境に生息するドブネズミがペスト菌を運んでいるように思われがちだが、実際はネズミに寄生する蚤がペスト菌を運ぶ真犯人なので、きれい好きなクマネズミも媒介者としての資格が十分ある。

優れた捕獲具が現在まで多く残っていないので、捕獲具の開発に関してヨーロッパを中心とする多くの研究者が途中で開発をあきらめ匙を投げたと思われる。

日本でも、明治になって多くの外国船が入国するようになり、ペスト菌を持ったネズミが船によって海外から侵入することの危険性が指摘されるようになった。当時の政府はそのことを重く受け止め、国策として入国船の防疫を行い、合わせて捕獲具の開発を奨励した。船を一定期間沖合に待機させ、ネズミが生息していないかを調査をした後、もしネズミがいた場合駆除が完了するまで船を入国させない措置を取ったのである。

ネズミの捕獲具に関する特許と実用新案の出願数の推移を調べてみると、その多くがこの時期に集中している。研究機関を含め民間にも捕獲具の開発を奨励したのだろう。当時の様子が分かって、実に興味深い。

しかし、多くの人が知恵を絞って仕掛けのアイデアを出し合ったのだが、有効な物はほとんど残っていない。試作して10試してみたが、ほとんどの仕掛けがネズミたちに一蹴されたのだろう。捕獲具の良し悪しを判定するには捕獲率が重要視されるが、どんなに優れたアイデアであっても相手にすらされない仕掛けでは判定のしようがない。