設計図より設計者の熱意を読む

設計図をそのまま読むなら誰にでもできる。スマートゼネコンマンなら、設計図を書いた設計者の熱意を読まなければいけない。こう言うとスピリチュアルな感じがしてわかりづらいかもしれない。

だけど、この熱意や思い、その人の信念を共有してプロジェクトに取り組むかどうかで、大きく成果は変わってくるのだ。会社で言えば、企業理念やビジョンなどがそうである。

企業理念は会社の存在意義になる。

毎日の業務の中で判断に迷うような時、その理念に基づいて判断できれば、体幹の強いブレない企業風土ができる。そういう企業が永く発展を続けていく。

建設現場もこれと同じで、設計図の表面だけとらえるとうまくいかないことが多い。

例えば、設計図の中でも矛盾していたり、食い違っていたりするところがある。あるいは、設計士が打ち合わせで言っていたことが設計図に書かれていない場合もある。

そんな時、「設計図通りに施工しました」という言葉は、一見スジが通っているようであっても、これでプロジェクトがうまく進むことはほとんどないはずだ。

実際の例で言うと、鉄筋コンクリート構造の建設現場では、鉄筋をどこに何本組み立てるか、ということが構造図と呼ばれる図面に書いてある。もちろん、現場としてはこの図面通りに鉄筋を組み立てるのだけど、構造図の根拠となる構造計算書を見ると、鉄筋の本数が違っていたりする場合がある。

図面を表面的に捉えているだけだと、当然そんなことには気づかないので、鉄筋が組み上がった後、構造設計者や監理者が検査にきた時に初めて気づいたりする。

「あれ、ここの鉄筋は9本必要だよね?」と言われても構造図には8本と書いてあるので、現場も間違いではない。だけど、構造計算上は9本ないと強度不足になるのであれば、明日に控えるコンクリート工事を中止してでも鉄筋を組みなおすか、違った方法で補強するしかない。いずれにしても余計な作業が発生してしまうのだ。

僕が初めて、建物を支える杭工事の現場管理に携わった時、墨出しといって、設計図面通りの位置に杭が施工されるように、現場に目印を出したことがある。自分で出した位置をめがけて、職人が大きな機械を操作し、10メートルはあろう巨大な杭を地面に打ち込む。

とても壮大なスケールに圧倒されてしまうのが杭工事の魅力だ。その杭工事の最中に、4か所ほど墨出しの寸法が間違っていて、設計図から杭の位置が許容範囲を大きく超えてズレてしまったことがある。大雑把な性格が出てしまったのか、設計図に書いてあった寸法を読み違えてしまったのだ。

どんな理由があるにしろ、一度埋め込んでしまった杭を掘り起こすことはできない。結果として、設計変更を発生させてしまい、その後の躯体工事で、当初の予定になかった補強工事が必要となり、予定していた工期より3週間、躯体工事を遅れさせてしまった。

この時は現場のメンバー総出で知恵を出し合い、最終的には契約工期内に引き渡しできたのだけど、間違いが発覚した時のショックというか、責任の重さというか、毎晩お酒を飲んでも寝られないくらいだった。

この時の設計士の方に教えて頂いた。

「設計図に書いてある寸法のひとつひとつに、意味があるんだ。だから、単に数字だけ見られても困る。ちゃんとその意味を考えたら、寸法を読み間違うなんてことはないはずだ」と、文章で書いたら優しく聞こえるかもしれないが、実際にはものすごい剣幕だったので、当時はまだ新人だった僕にとって、本当に心が折れそうだった。

何せ、まず最初に上司が、事務所の隣にある会議室に呼び出され、大声で怒鳴られているのを聞きながら、しばらくした後に今度は僕が会議室に呼び出され、設計士の方と1対1でお叱りを受けたのだ。

今思い出すだけでも恐ろしくなる。ただ、「業界の最大手ともあろう会社が、こんな失敗をして情けなくないのか!」と言われた時、とても悔しい思いだった。

このままではいけないと、ここでもトラブル大歓迎の精神が活躍してくれた。

ちなみに、この時の上司が先にも登場したH氏だ。杭工事でこれだけのミスを犯し、設計士に罵倒されながらも平然としている(ように周りからは見えるらしい)僕を見て、H氏は「お前は大した奴だよ」と、笑っていた(僕としては、立派な褒め言葉を頂いたと思っている)。

それ以来、設計図に書いてある内容の意味を考えるようになれた。

そして、この大失敗をしてしまった現場から2年後に始まった現場で、また杭工事を担当させて頂いた時は、自分の中で勝手にリベンジと決め込んでいたので、無事に最後の杭を打ち終えた時は正に感無量だった。

先述した、構造図と構造計算書の鉄筋本数の違いは、実はこのリベンジを果たした現場での実際の出来事である。この時僕は、図面に書いてある内容の意味、設計者の思い、そんな事を念頭に構造図を見られるようになっていたのだ。

そうやって構造計算書を読み解くと、もともと読書好きなせいもあってか、想像していた以上に構造設計者の思いが伝わってくるのだ。それによって、構造計算書に書いてあった内容と、図面内容の違いに目が行き届いたのだ。

そして、設計者に事前に質問をした上で正しい本数を確認し、現場で鉄筋を組みなおすことなく、躯体工事を進めることができた。

杭工事でトラブルを起こしたあの時、ものすごい剣幕で教えて頂いていなければ、事の重大さに気づかず、同じ過ちをしていたかもしれない。当時はとてもそんな気持ちになれなかったけど、今は感謝の思いでいっぱいだ。

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『スマートゼネコンマン~残業なしで成果を出す次世代現場監督~』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。