【前回の記事を読む】荒れ果てた地に現れた少女…鋭く睨み付け、銃を向けた相手とは

第一章 死神

あそこがアジトのようだ。

少女は息を整えた。恐れを凌駕して徐々に怒りが(よみがえ)ってくる。全身に熱い血が巡る。

少女は歩を進めた。足音を立てないよう、静かに。奴等の居る廃屋が近付く。全員中に居るようだ。見張りはいない。

少女は暗い廃屋の中に足を踏み入れた。奥から大声が響いてくる。

声がする部屋まで静かに近づき、そっと中を覗き込む。ランプの明かりだけが灯る部屋に、ソファに座る男が三人、椅子の(そば)に立つ男が一人。静かに立っている着帽したままの若い男だけが小銃を持っており、他の三人は全くの無防備で酒を飲んでいる。

やれる。

私には出来る。

自分に言い聞かせ、意を決して部屋に飛び込んだ。

「動くな!」

少女は男達の前に飛び出し、叫んだ。突然の出来事に男達の動きは止まった。銃を持っている少年も銃口が下がったままだ。自分の銃口は中央の男に向けている。取りあえず牽制には成功したようだ。

しかし彼女は決意した瞬間に牽制の声など掛けずに引き金を引くべきだった。男に向けた銃口は震えていた。足も震えている。震えている自分に気付くと、少女の身体はますます振動が激しくなっていった。 

「ほう……? 撃てるもんなら撃ってみろ」

飛び出してきた人影が少女であり、恐らく人を殺すどころか銃を扱ったことも無いと確信したボスらしき男は、にやけた顔で言った。銃口が自分に向けられている事を気にもとめていない。歴戦の男には分かるのだ。弾は自分に当たらないと。

少女の指は固まっていた。男の言う通り、引き金を引けないのだ。

その一瞬の遅れが命取りになった。

銃を持っていた少年が銃口を向けた。顔を上げた事で、視線が合った。

「ウマル……?」

その顔を見て、少女の目は見開かれた。自分に銃を向けている少年は、生き別れになった弟だった。瞳が、意思を持たぬ機械のように(うつ)ろだ。

この組織は孤児を集めて洗脳し、自分達の戦士に仕立てるという噂があった。肉親にさえ銃を向けてしまう殺人マシーンへと。

「ウマル! 私よ! 私が判らないの?」

弟の表情に感情が見られない。彼は完全に洗脳され、奴等の兵士にされていた。

奴等の洗脳はまずドラッグと暴力、そして食事さえ与えず「餓死」という本能的な恐怖を植え付け、自我崩壊させる事から始める。それから絶対に命令に逆らえない生きた兵器に変えられてしまうのだ。それは幼い程強力に、より完璧に作用する。

姉の自分が判らないのか、肉親であっても命令に従うように洗脳されているのか。それは判断がつかない。