残念ながら、広範な検査を実施しない限り、感染の実態は掴めない。女優の岡江久美子や力士の勝武士が適切な医療を受けられずに死亡した事件の遠因とされる、「37.5℃以上の熱が4日以上続く」という、「帰国者・接触者相談センター(保健所)」への相談目安のうち、4日という待機条件こそ撤廃されたが、未だに、無症状で感染が疑われる人が直ぐにPCR検査を受けられる状態にはなっていない。

結局、最初の問題設定を誤ったのである。政府の一番の問題意識は、「軽症の陽性者を隔離する中間施設の整備が追い付いていない」という政策の失敗を覆い隠すことにあった。検査数を絞れば感染者数も伸びない。低い水準の感染者数を背景に、「感染は収束に向かっている」と宣言して経済社会を回し、推進してきた「アベノミクス」の成功を演出したかったのだと推測する。

私は、早くからこの情報操作に気付き、数少ない良心的なマスメディアから情報を集めて分析してきた。しかし、世間では、「10万人当り0.5人」という唯一の、しかも科学的な根拠のない基準を巡り、一喜一憂している。やはりこれは思考の枠組を変えないといけないと痛感していた矢先に、良い本に出会ったので、ここに紹介したい。

その本とは、書名を『クリティカル・シンキング』(北大路書房)と言い、シカゴにあるロヨラ大学の2人の心理学者が、今から30年近く前の1992年に著わした古典的名著である。この本の中で、著者は「適切な基準や根拠に基づく論理的で偏りのない思考」を"クリティカルな思考"と呼び、この思考を習慣化することを勧めている。

この思考には、次の3つの要素が含まれる。即ち、①問題に対して注意深く観察し、じっくり考えようとする"態度"、②論理的な探求法や推論の方法に関する"知識"、そして③それらの方法を適用する"技術"である。著者は、この中で最も重要なのは①のクリティカルな思考の"態度"であると述べる。その上で、踏まえるべき原則を入門編で40、実践編で50の合計90授けている。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『未来を拓く洞察力 真に自立した現代人になるために』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。