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仮説を持ち観察し結果を検証して確信に至る思考法が必須だ

去る2020年5月25日に緊急事態宣言は全国で解除され、経済社会活動が徐々に戻りつつある。しかし、その戻る速度は予想よりも遅いようだ。なぜだろうか。テレビが報じる街頭インタビューなどを見ると、皆口を揃えて「まだコロナは収束していませんから……。怖いですね」と答えている。安倍前首相が記者会見で「感染の第一波を封じ込めることができた」と豪語しているにも関わらずである。

実は、大多数の国民は政府の発表を信じていないのだ。肌感覚で「まだウイルスは市中に潜んでいる……」と感じている。不安は拭い去れていない。不安が拭い去れない最大の理由は、体調が悪化しても直ぐに検査が受けられず、陽性かどうか分からないという実態があるからだと考える。

集団で感染が発生した「クラスター」を潰す作戦だけでは、無症状の感染者を含めた全ての感染者は追いきれない。決め手となるPCR検査の件数も伸び悩んでいる。こういう状態で、誰が安心して街に繰り出せるだろうか。

先日、NHK─BSで放送された、厚労省クラスター対策班に密着取材した番組を観た。その中で、リスク管理チームのリーダーを務める東北大学の押谷教授は、苦渋の表情を滲ませながら「PCR検査で陽性が判明した患者の受入態勢が整っていない以上、貴重なPCR検査の資源をクラスターに集中するしかない……」と述べていた。

押谷教授は、政府の専門家会議の委員でもあるため、制約要因が多い中で、現実的に対応可能な対策を取らざるを得なかったのかもしれない。しかし、純粋に科学的な知見に基づく提言が求められる専門家会議としては、「陽性者が大量に出ると現実的には医療面の対応ができない」という政治的判断を含んだ提言を出すのは、自殺行為に等しいのではないか。

もし、一切の制約要因を考慮せずに、自由に意見を述べられる環境にあったら、押谷教授は迷わず「徹底したPCR検査の実施による感染者の隔離」を提言しただろうことは、想像に難くない。陽性者が完全に隔離されていれば、残りの陰性者は以前と同じように、安心して経済社会を回していくことができる。少なくとも思考実験としては、提言の中に盛り込まれるべき内容である。