【前回の記事を読む】スローモーションに見える!危険を感じた脳の驚愕の働きとは?

ボトムアップ的認識では危険の察知が視覚に影響する

さきほどふれましたが、私の経験で、対向車が見えた最初の瞬間というのは、何かが急に目の前に現れたという感じでしたが、道路での飛び出しの場合も、最も早い段階でそれを知覚し、即座にブレーキを踏まなければならないので、おそらくは少年がはっきりと見えるよりも前の早い段階で、何かが急に飛び出した、という感じで知覚されて(最初の瞬間)、同時にブレーキが踏まれたということではないかと思われます(少年が飛び出してから100~145ミリ秒程度で知覚されるということと考えます)。

この際の見え方は、記憶情報との照合がされるよりも前の、視覚野の早い段階での視覚情報と考えられるのですが、さきほどの「危険を感じた瞬間に物事がスローモーションのように見える」ことから考えますと、道路への飛び出しの場合、まずはじめは(少年は)周辺視野で知覚されるのではないかと思われます(周辺視野は動きに対する感度がいいです)。

周辺視野で知覚された人をサッケード(中心視野)でとらえる際、周辺視野でとらえた段階ですでに危険を感じていると考えられますので、脳の情報処理のスピードがアップし、サッケード(中心視野)でとらえた対象の視覚情報処理は自動的に進行していくわけですが、その瞬間に必要とされる最も早い段階での視覚情報が取り出され、それが知覚され(見えて)、すぐにブレーキが踏まれたということとなるのではないかと思います。

おそらくこの際の最も早い段階での視覚映像というのは、私が経験したようにそれが対向車とすれば、色も形もまだはっきりとは見えていない段階での見え方ではないかと思われるのです。

つまりさきほどのように、危険が感じられると、急に脳での認識のスピードが速くなって、視覚の情報処理過程の途中の早い段階での(まだ不明瞭な)映像が見えるということではないかと思います。ふつうは記憶情報との照合がされたあとの統合された映像が見えるわけですが、危険が感じられると統合される前の映像が見えるということと考えます。これによって緊急性のある危険な状態をすばやく知覚し、すみやかに行動を起こすことができると考えられます。

ちなみにさきほどの黄色い物体の断面が一瞬見えたときも、不安となった瞬間、「危険の察知」と同様の機序で、照合前の映像が見えたということなのかもしれません。