第六章 旅立

何千年も何万年も先の宇宙に生命体が行くもう一つの難題が、人間の再生である。地球上での人体再生は倫理規定から行なうことができないが、マザーコンピューターの中でのシミュレーションでの再生と動物実験では、各臓器の再生も問題なく成功している。

中本は、人間のすべてをiPS細胞から再生できると確信していた。人工胎盤の研究においてもほぼ完璧な成果を収めて、不妊手術において成果を出すことができて、生殖機能なしで人間や動物をいつでも必要なときに再生できる人工胎盤を内蔵したカプセルを作った。

この頃になると、中本もマザーコンピューターのシミュレーションシステムを利用して、コンピューターの中での再生実験が短時間で何回もできるようになり、動物実験での時間も費用もかける必要がほとんどなくなっていた。人間の科学が神の作り出した生命誕生の領域に入り込んだのである。

植物も、成長点細胞から全く同じ植物を、成長点バイオテクノロジーでビーカーの中で食材として作り上げることに成功した。この方法を使えばこれで何千年先の宇宙に出かけても豊富な種類の食材や食料をビーカーの中で作り出すことが可能である。

鶏肉、牛肉、豚肉などの肉類、キャベツに白菜、ジャガイモにサツマイモなどの野菜、そしてミカンにリンゴ、バナナなどの果物、主食となるコメや小麦、海の中のマグロやハマチ、タコ、イカに至るまですべての食料を、たった6人の人間だけの分ではあるが何万年に亘って供給し続けることができる。

継続供給と量の確保の他に、6人の主人が食べるものに飽きないように少量多品種の食料生産が必要となる。もちろんバイオによる食糧生産がうまく稼働しなかったときには、船内に畑を作り野菜を作ったり木を植えたりして果物を取らなくてはならない。食料を作り出すシステムは二重三重の安全を考慮しておかなくてはならないことは言うまでもない。しかも、これらの安全装置は人間の趣味の農業としての位置づけも兼ねている。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『U リターン 【文庫改訂版】』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。