【前回の記事を読む】昆虫ロボットが成功の鍵?宇宙船を守れるまさかの生態…

第五章 ロボット

宇宙船の中には本当はゴミなどない、すべてが資源なのである。船内に積み込まれただけの限られた物資で2万年もの旅をするのであり、途中で調達することはできない。調達可能な資源といえば、せいぜい氷塊だけである。

船中から出た金属や石材、プラスチックのゴミは再生設備で分子レベルまで電気分解され、種類ごとに細かく貯蔵され、必要に応じて製品に加工される。木材などの有機物は、このフンコロガシロボが取りまとめてボール状にして土の中で発酵分解していったん土に戻し、生物の力を借りて製品として再生する。百年に一度の人間を再生するときにも、細胞の栄養剤として使われ、日常必需品の制作にも利用されることになる。

このフンコロガシロボが作り出す有機物の発酵熱が微生物を育み、環境を整備する。この船の中の熱源はこの微生物が作り出す、発酵熱と原子力エンジンでウランが出す放射熱だけである。フンコロガシロボの活動なくして居住区域内の環境は安定しない。

通称鳩ロボ、正式表示はCO─101号。30基(羽)が製造された。この鳩ロボは船の周りを回りながら、何でもこまごまとお手伝いする、母親のような働きをする。主な仕事は、送られてくる少し大型の資材を宅配便のように所定箇所に配送したり、地球から来る連絡船の誘導をしたり、工事中のロボットのバッテリーを取り替えに運んだりする目立たない縁の下の力持ちロボである。宇宙空間で本船を誘導できるタグボートの役割をすることもできる。特にペアーによる連係プレーが得意なので、仲の良い夫婦のように言われる。

中でも最も大切な仕事は、建造現場や、船外現場の状況を目についている高性能カメラとセンサーで映し出しマザーコンピューターへ報告することである。全長4キロメートルもある船の内外を、固定カメラですべて映し出すのは困難であるので、この鳩ロボが飛び回って連絡を入れるのである。

そんなロボットたちの中でひときわ変わっているのが海狸ともいわれる、通称、ビーバーロボ、正式表示はBB─777号。月や地球から送られてきた石や氷のブロックを、石工職人のようにきれいに貼り付けていく職人ロボットである。短い腕に器用な手を使い、船の外壁に月の石のブロックをパズルのピースのように、大きさや形を識別して、細やかな加工を加えて、接着剤をつけて貼り付けていく。コツコツ働く姿は職人のようである。それは、ビーバーが川でダムを作ったり住み処を作ったりする自然の姿を思い出させる。

このビーバーロボの特徴は何といっても丈夫な歯である。岩石も金属も加工し、尾の先には電気溶接バーナーも持っている。船内の機械のセットや装置の取り付けだけでなく、船外のアンテナや望遠鏡など観測装置の補修や取り付けなど、大工並みの仕事を行なう性能を持っている。

この他にもヒツジ、カメムシ、モグラなどのロボットも出発の間際まで製造され送り込まれた。このような数々のロボットは、乙姫が詳細設計した図面に基づいて、織田が社長をしていた環境器具製造会社で製作することになった。

そうそう忘れてはいけないのが、皆のアイドルとなった乙姫の分身ロボ、猫姫もここで作られたことだ。会社は、宇宙ロボットの製造会社として世間では「宇宙虫の会社」との愛称で呼ばれた。これらのロボットを指揮コントロールしているのは乙姫である。建造のすべては乙姫が設計・監督・管理しており、船の基本設計をした堀内はモニターを見ながら製造の進捗を管理する程度である。

事実堀内は、生物模擬ロボがこれほど精密に船を作り上げていくことは当初想像もしていなかった。堀内の嬉しい誤算が新しい建造方法を生み出したのである。まさにシンプルイズビューティフルな自然工法である。