【前回の記事を読む】夫の事故死…直後から4時間LINEし合った友人達への深い感謝

第一章 突然の別れ

日本へ

やがて、飛行機は定刻通りヒースロー空港を離陸し、順調に成田に向かった。成田着陸が近づいて、トイレに行った。ぎょっとした。ひどい顔だった。頬っぺたをパンパン叩いた。だが、座席に戻ると、背筋を立てていられない。姿勢は崩れ、顔も弛緩する。いけない、と思うのだが、立て直す力がなかった。

涙は出なかった。悲しみも辛さも、よくわからなかった。お腹もすかず、眠くもない。現実ではないどこかを漂っているような感じだった。感情のないロボットのようになって、着陸を待った。

ところが、飛行機は成田上空で旋回を始めた。「大雪のためにいくつかの滑走路が封鎖され、着陸の順番待ちで渋滞中」という機内アナウンスが流れた。着陸態勢に入ってからの旋回なので、パソコンを開けることもできず、機内から娘たちに連絡する手段もない。

突然、「博史に会いたい、一刻も早く顔が見たい、手を握りたい」という感情と、「このまま逃げ出したい」という感情が同時に込み上げてきた。心と体が引き裂かれそうだった。

怖い! ハンカチを取り出し、思い切り強く噛んだ。何言ってるんだ、恭子、しっかりしろ! 全身に力を入れた。