【前回の記事を読む】1年間英国赴任を務めた銀行員が教える、欧州旅行のコツとは?

1998年7月10日(金) ヨーロッパ歴史訪問記中間総括(その1)

-多様性と歴史の深さ、中央集権と分権の相克-

中央集権との関連で政治面の話をすると、『ローマ人の物語』および中世以降のヨーロッパ史を見ると、社会の発展段階に応じ中央集権のメリットが発揮される時期と分権のメリットが表れる時期とがあるようです。ナポレオン1世(在位1804年~1814年、1815年)の言葉ですが「二人の優秀な司令官が指揮する軍隊より一人の平凡な司令官が指揮する軍隊の方がいい」わけで軍事面での中央集権の優越性は争えません。

政治面では、軍事が政治の中心であった時代は分権制のメリットよりも中央集権のメリットが優越します。経済面ではアダム・スミス(スコットランド人だそうで、ウォレス記念碑でスコットランド偉人の一人に挙げられていました)の『国富論』を待つまでもなく自由競争の優越性は明確で、特に最近のアングロ・サクソン・システムの人気を見るとアジア的開発独裁の時代ではないという気がします。翻って、ヨーロッパから日本を見ると明治維新以降の中央集権化は時代の要請としても、もうそろそろ分権化を実施しないと世界の趨勢に遅れます。

政治面だけでなく組織運営面での分権化(最近はやりの言葉ではコーポレート・ガバナンス)が課題です。監査の仕事でロンドンに来ましたが、軍隊的な命令権で生産性が上がるような時代ではなくなったと思います(ハードよりソフトの時代)。特にその必要性は製造業より、銀行も含めて非製造業の方が高いと思います。

その意味では明治維新以降の日本の歴史は軍事中心・中央集権・開発独裁型で、戦後民主化後権力の分散が図られ、特に公共セクターの比重低下・民間セクターの比重増大は時代の趨勢としても、企業の民主化・権力の分散(不当な権力の集中に対する牽制というべきでしょうか)についてはアングロ・サクソン・システムには水をあけられているのが実状です。私はサンフランシスコ、シドニー、ロンドンとアングロ・サクソン・システムにどっぷり染まってしまい今更変更不能ですが、日本的システムとどちらが優れているかの話ではなく、旧来のままの日本的システムではグローバル競争の時代に生き残れません。

今興味を持っているのは、宗教の役割です。この問題は現地の人に聞く話題としてはセンシティブで表層的な観察しかできないかと思いますが、次回中間総括までの課題として考えたいと思っています。

最後に皆さんにお礼を申し上げます。過去1年間の単身赴任を元気で過ごせたのは、まず毎朝の妻とのラブ・コールそして皆さんとのメッセージ交換のお陰です。やはり人間は社会的な動物で、誰かに認識してもらっていると思うだけで生活に張りが出てきます。俳優が観客を必要としているように、読者がいるからメールを出す気になります。ヨーロッパをこんなに回れたのも生来の旅行好きもありますが、家族および皆さんに同じ感動を伝えたいという気持ちがヨーロッパ旅行を支えてくれました。これからもご愛読宜しくお願いします。

※本記事は、2021年8月刊行の書籍『ヨーロッパ歴史訪問記』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。