次の日会社に着くと、舞は無理な作り笑顔で言った。

「おはよう。今日は会えたから話したいことがあるの。もちろん、仕事のことよ」

仕事のことでないことはすぐにわかった。舞が、ウインクして合図したから。話は会議室を借りて、小声でした。

「実は、私に昨日の夜、変な電話がかかってきたの。得体の知れない男の声で、『はかない命だったな。大木さんは』とか言っていたので、恐ろしくなって警察に届けたの。あきらかに私たちの動きをわかっている人間の仕業に違いないわ。もしかしたら、同じ会社に勤めている人かもしれない」

私は、恐れていたことが現実に起こったと思った。だから、舞にはメールで話すよう再度お願いした。

「そうするけど、メールも安全かしら?」

と、さすがの舞も不安そうだった。

起こりうる災難から、身を守る術を考えなければならない。

会社は特に危険だから、と思わなくてはいけないのかもしれない。

話すときは、舞は家族の携帯がいい。警察に連絡するときもだ。

私たちは対策を練った。

また、いかなる対策も功を奏しなかった場合に、協力者をどうするかを考えた。

舞の家族。

犯罪とまでは、まだ懐疑的な警察。

あとは誰かいないか。会社で信頼できる人。

舞は、

「笈川さんはどう?」

と、言った。

彼女は誰からも慕われるお母さん的な存在で、必ず力になってくれそうな人だった。話しやすそうな人だった。ただ、私とは今まで接点がなかったので、存在を忘れていた。

「いいよ。彼女に話しても」

と、私は舞に言った。

私の立場としては、他人を巻き込みたくなかった。だけど、そうせざるを得ない状況に陥った。

単に置き去りだとは言えない私の事件に、いい人たちを巻き込んでいくのは後ろめたかった。なぜ、こんなことになったのか?

解決したいが、悪い予感もした。

仲間は多い方がいいのかわからないので、話す人間はここまでに限ることにした。笈川さんには、舞が家族の携帯から話してくれた。職場に怪しく感じる人がいないか、観察してくれる、ということだった。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『いたずらな運命・置き去り 【文庫改訂版】』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。