「おめでとう。勝ったね」

何だか聞きなれた声が後ろから聞こえた。佑子が振り向くと、ひょろりと丈高い長身の上にヒロさんの笑顔があった。

「この四月から、この学校に移ったんだよ。きみたちのゲームが見られて、よかった」

あ、どうも、ぐらいしか佑子の言葉は出ない。へたり込んでいる部員たちの姿を見ながら明らかに感動しているのに、それをどうしていいか分からない。冷静に考えれば、来週はもっと格上のティームとの試合がある。でも、それをどう持っていけばいいのか分からない。葉山高では、山名は、どうしていたんだっけ。そればかりが頭の中をぐるぐる回っているのだ。

「大磯東、集まれ!」

普段とは明らかに違うトーンの基の声。試合は何も言わないで見てるから、と今朝言っていた。ヒロさんだって望洋高時代にラグビー部のサブをやっていたはずだから、見る目はあるはず。なら、二人で一緒に観戦していたのだろう。

体育館下のスペースに立った基の周りに、二、三年生が輪を作る。背後に、まだ初々しい制服の一年生が七人。

「勝利を祝う言葉も言いたいけど、その前に。ゲームの後で、それがどんなゲームだったって、グラウンドでへたり込むのはみっともないと思え。全力を尽くしたことはよく分かる。でも、強がれ。そうしないと、弱い自分はそのままだ」

基は、厳しい表情で言う。

「だよな?足立」

「その通りだと、オレも思います。せっかく勝ったんだから、カッコつけようぜ」

足立くんばかりは、堂々と胸を張って、それでもあえて軽い言い方をしているんだろう。それが、彼なりのキャプテンシーだと佑子は感じる。

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『楕円球 この胸に抱いて  大磯東高校ラグビー部誌』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。