第2章 解釈

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ケントはイングリッシュ・キャンプに連絡を入れ、マリーの学外レッスンの予約をした。1週間後、マリーから指定された浅草の店に来た。インターカフェと名の付いた店はなぜだか中東を思わせる外観をしていた。店内に入ると壁全体が緑のシダのようなもので覆われ、インドネシアの民族音楽なのだろうか、小気味よいリズムの打楽器の音がわずかに流れていた。

左手のカウンターキッチンの中から「Hi !」と、東南アジア出身と思わしき女性が声を掛けてきた。軽く会釈し店内を見回した。

マリーは店の一番奥の4人がけテーブルにひとりで座っていた。ヒジャブにおさまった顔の中で、大きなくっきりとした眼が輝いていた。

「Hi Mary, Thank you for coming(今日はありがとうございます). お店選びを任せてしまってすみません」

「Sure (大丈夫ですよ)! ここは私のお気に入りのお店です。つい最近できたお店です。友人に教えてもらったのですが、ここにはハラールメニューがあります」

マリーがメニュー表を開いた。緑色の太い横棒に白抜きの字でHALAL menu(ハラールメニュー)と書かれていた。1ページに6品で、左右2ページ分、全12品の写真と料理ごとの解説が付いていた。

「今日は私が自分で支払います。ケントさんは食べても食べなくても大丈夫です」

そう言ってマリーは右手を軽く挙げてカウンターの中にいた女性に合図した。半袖短パン姿の彼女が近づいてきた。

「ケントさん。彼女もイスラーム教徒なんですよ」と言って彼女を紹介した。

マリーと彼女はいくつかの会話をしたあと、マリーはナシゴレンを選び、僕は彼女のお勧めだというバクテーとサテーを注文した。

「どうですケントさん。外見では判断できないですよね。イスラーム教徒かどうか」とマリーは言って、手のひらを上にして指先を彼女の方に向けた。

「このお店はインドネシア出身の方が経営しています。もちろんイスラーム教徒です。ですから安心です。せっかく日本にいるので和食も食べたいのですが、ハラールではないので、食べるチャンスが少ないのです」

しばらくして、例の彼女が料理を運んできた。バクテーという鶏肉の入ったスープと、サテーという焼き鳥のようなものがテーブルに置かれた。

「これらはすべてハラールですか?」と聞いてみた。彼女は「Sure(もちろんです)」と答えた。

※本記事は、2019年12月刊行の書籍『きみのハラール、ぼくのハラール』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。