振り返って私が今猛省していることがある。当時の学会の権威と呼ばれる先生方に相談しても、駄目なのは当たり前ではないか、彼等とて私同様の先入観の中にいる、実験した当事者がそれなりに考えて回答が出ないことに、第三者が明確な回答などできるわけがない。

あの際外国に出ず自分でデータを深く読み込み、じっくり腰を据えて考えていれば、リンパ球には胸腺リンパ球と脾リンパ球という異なる性格のリンパ球があり、それらが混合しているのが腸間膜リンパ球だとの推論に至ったはずである。浅はかであった。海外に行きたいがため英会話の練習などその準備に忙しく最も重要な自らのデータを深読みするという本業を疎かにしていたのである。

メルボルン学派に身を投ず

海外の免疫学で優れた情報発信をしていたカロリンスカ研究所を含め、11の大学、研究機関に手紙を送った。第一志望はクローン選択説でノーベル賞を受賞したバーネット教授が主催していたメルボルン大学のウォルター&エライザホール研究所であった。新しい所長に就任していたノッサル教授より「今年の枠は締め切りました。ことができた喜びは大きかった。

オクタロニー法:ゲル内拡散反応は抗原と抗体を寒天の支持体に空けた二つの穴に入れると拡散しその接点で沈降線を作る。

T細胞:血中リンパ球の60~80%を占める。骨髄由来の未熟なリンパ球が胸腺で分化成熟し、血流により末梢に出てくる。このリンパ球は細胞性免疫をコントロールしている。

B細胞:特異的抗原に対する抗体の産生および放出を行う細胞。液性免疫の中心となる細胞。

細胞性免疫:T細胞、食細胞、細胞傷害性T細胞、NK細胞などが体内のウイルス、細菌、がん細胞などの異物を排除する免疫反応である。

クローン選択説:1957年オーストラリアのメルボルン大学、ウォルター&エライザホール研究所のバーネット博士が提唱した抗体産生についての説。あらゆる抗原に対し特異的に反応する抗体が先天的にB細胞クローンとして存在し、抗原が体内に侵入すると特異的に反応するB細胞は急激に増殖し抗体を産生する形質細胞へと成熟するという考え方。この研究でノーベル賞を受賞した。

バーサ依存性Bリンパ球:バーサとは鶏の肛門近くにあるリンパ組織でBリンパ球で満たされている。人間の脾臓にあたる。

※本記事は、2021年9月刊行の書籍『心の赴くままに生きる 自由人として志高く生きた医師の奇跡の記録』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。