【前回の記事を読む】ゾッとする…赤ん坊の死体を見ながら汲み取り作業続行?

赤ん坊を取り出すため…

その後赤ん坊の死体の回収作業が始まった。鑑識の係官が腹ばいになって、頭と両手を便槽の穴の中まで突っ込んで、糞尿にまみれた赤ん坊の死体をまるで宝物でも扱うように、優しくそっと両手でつかむと、今度は、その腹ばいの警察官を、まるでマジックハンドの代わりにでもするかのようにそのままの態勢で、両足を別の係官二人が引っ張って赤ん坊を回収した。

赤ん坊をつかんだ係官は、カッパを着て、フェイスシールドと手袋はしていたものの、肩から上は糞尿だらけで、おまけに腹ばいになって引きずられたので、前日に雨が降って、地面がドロドロだったせいもあって、泥が体の前側に染み込んで、ベチャベチャになっていた。

しかし、それにもかかわらず、その係官はどこかとても誇らしげな顔をしていた。健一は誰も見ていない青いブルーシートの裏側で、なんとしても事件の証拠を最高の状態で回収し、真実を突き止めようとする強い使命感に裏付けられた行動に、いつしか感動を覚えていた。

そして、こんな立派な人たちの役に少しは立てたと思うと、なんとも言えない喜びが湧いてくるのだった。いやいや協力していた自分が恥ずかしくなった。

健一はしばらくすると、なんだか自分がテレビの刑事ドラマに出演している役者のような錯覚に陥って、妙にワクワクしてきた。

健一は刑事ドラマが大好きだった。まるであの有名なテレビドラマ『太陽にほえろ!』にでも出ているような気になっていた。それは見方を変えれば、そのときの出来事が、いかに日常の出来事からかけ離れた特異なものだったかということを物語っていた。健一は、現場の警察関係者から、何度も感謝とねぎらいの言葉をかけられながら、バキュームカーで、西方警察署に向かった。