次の瞬間、崖のある方向から雷鳴にも似たけたたましい音とともに、地震とは明らかに違う振動が伝わってきたのだ。

「崖崩れだ!」

巻き込まれてしまっては一大事との思いで、崖から離れようとするが揺れが強くて動けない。いつまで続くものか、揺れは本当に長く感じられる。地震に適応したというわけではないにしろ、電話の途中だったことを思い出し、草を握った手を離して身の回りにあるはずの携帯電話を探してみると、もう一方の手に、痕が残るほどの強い力でしっかりと携帯電話が握られていたのだった。

見てやっと気づき、それがきっかけとなったのか、両手に感覚が戻った気がして、自分がそれほどまでに気が動転していたことを実感し驚愕した。

気を取り直し、携帯電話を耳に当ててみても、切断音がしているだけで、父の安否が気がかりになる。何もないこの場所とは違い、先方は大勢の人がいる学校であり、大変な事態になっている状況が予想されたからだ。

ほどなくして目の前の祠が、フラフラと動きが緩慢になってきていることから、揺れが収まりつつあるのが感じとれた。だがそう感じたと同時に、小規模の地割れが走り、祠がゆっくりとその中に崩れ落ちていく、その様が不思議に踊り疲れて倒れこむような人間の挙動に見えてしまう。近くに振幅を身測る目安となる物が祠しかなかったことで、無意識に一部始終が見えていたからなのかもしれない。

こんな信じ難い出来事ばかりが続くはずもなく、必ず終わりは来るはずである。そうしたら誰が何と言っても絶対に帰るんだ。そう決心し、まずはレオと周りの安全を確認していると、はたして揺れは収まったようだ。

ところが気丈な明日美でも、まだ鼓動が激しく体もがくがく震えが止まらないでいる。経験はなかったが腰が抜けた感があり、立ち上がることさえもままならないのだ。心を落ち着かせようと深呼吸を試したりもしてみたが、普通の状態に戻るまでには、しばしの時が必要となった。こんな強烈な衝撃を受けた経験は今までにない。

※本記事は、2021年8月刊行の書籍『魏志倭人外伝』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。