私の視覚経験、顔の知覚

次に顔の認識に関してですが、私は、顔の認識にやや時間がかかることを、何回か経験しています。ほとんどが職場でのことで、あるとき水道で手を洗っていると、誰かが音もなくすぐ横に立っているのがわかり、はっとしてその人の顔を見上げた瞬間。また、人がいるとは知らず部屋に入ろうとしてドアを開け、中に人が立っていて、はっとしてその人の顔を見た瞬間。また、自分が部屋にいて、人が入ってきてその人の顔を見た瞬間など、いずれも誰だか予測できない状況で、とっさにその人の顔を見た瞬間(つまりサッケードで顔をとらえたその瞬間、ほんの一瞬だけ顔がわからない、見えないという状態だったのです)。

このとき顔以外の周辺視野でとらえた状況(顔以外の身体や周囲の景色)はもちろん全部すぐにわかりました。そして顔も直後にわかるのですが、明らかにタイムラグが認識できました。その遅れはだいたい200ミリ秒弱くらいと思われました。

また、飲食店にいて、ふと窓から外を見たとき、すぐ近くに車が止まっていて、運転席に乗っていた人の横顔(中心視野でとらえた顔だけ)が、ほんの一瞬、見えるのが遅れたのを認識したことがあります(このとき視線はぴったり顔に合っていて、はじめからピントも合っていたように思います)。このときのタイムラグはやはり200ミリ秒弱程度だったと思います。もちろん顔以外の周辺視野での映像(車や景色など)に遅れはありません。

私はこれらの経験で、中心視野での顔の認識に、やや時間がかかることを認識したのですが(かかるといっても200ミリ秒弱程度です、これは視覚誘発電位の測定からも考えられる時間です)、このような経験はごくまれで、ふだん遅れは全く感じません。また、近くにいる人の顔や、こちらに向かって来ている人の顔を意図的にとっさに見たりしても、顔の認識に時間がかかることを、どうしても自覚できませんでした。おそらくとっさの予期していない状況などで、認識の遅れを自覚できることがあるのではないかと思っています。

この際、認識のスピードが速くなり(このことはのちほど道路での飛び出しのところで申します)、一瞬の時間を認識できる、つまり、顔がまだ認識できていない瞬間を知覚できるということではないかと思っています。

ところでこの際、周辺視野では見えていて、顔だけが一瞬わからなかったときに、その顔の部分には何が見えていたのかということですが、自分であとから考えてみて、顔の輪郭のような部分だけが見えたように感じたり、そこだけやや暗い感じがしたりしたことなどがありましたが、確実な認識はできませんでした。この一瞬の見え方をとらえるのは難しいと思いました。