花は花として

すでに入部を決めた滋田友則とものりくん、宮島大くん、郷内宗治郎くんの三人が、ともかくのコーチとなって新入生に応対し、先輩たちはゲームプランのおさらいに取り組む。なぜだかそういう、慌ただしい時に限って新一年の子が突き指しましたとか、爪が割れましたとか、言い出す。末広さんがコールドスプレーを持って走るかと思えば、海老沼さんがテーピングテープを引っかきまわし、佑子が給水ボトルを抱えて走り回って。

五時に新入生を帰し、ようやく二、三年の練習に集中するかと思えばもうタイムリミットの六時に近づいている。正直に言えば、新一年担任の佑子は、他に書類仕事を覚えきれないくらい抱えている。一つ一つはシンプルなものが多いのだけれど、何せ新年度のスタートの、その新人たちのための事務処理だから、煩雑なことこの上ない。

生まれて初めての担任、ではあるから、要領よくなんてできないし、優先順位も分からない。しっかりした生徒の多い大磯東だけれど、書類上のちょっとしたミスや手違いやうっかりもないわけじゃない。一人分のミスなら何ということはなくとも、担任する生徒は四十人いる。一人が一つずつミスれば、対応する件数は四十になるわけだ。パニック寸前になって目を吊り上げていたら、副担任のベテランの先生が、またも手を差し伸べてくれた。

「和泉先生、機械的に済む書類仕事はこっちに投げていいんだよ」

その目尻のシワが、天使の光背より美しく見えた。

晴天の鵠沼俊英高グラウンド。佑子の自宅と大磯東のちょうど中間地点のような位置の藤沢市の、市街地を少し外れた場所にある。一回戦の試合が数試合組まれているから、高校ラガーたちが数多く集う。逆サイドのインゴールでアップに入る合同ティームを横目でにらみながら、大磯東もストレッチを始めた。

佑子は、足立くんが苦笑を浮かべるほど、準備の荷物にミスのないように、と昨日の練習後のミーティングで繰り返した。幸い、ケアレスミスもなく、部員の十五人は準備に怠りない。新一年生も、すでに入部を明らかにしている三人以外に四人が見学に来てくれた。

ネイビーの地色に、襟が白。胸にOISO・Eのマークが白で入る。短パンは白、ソックスはネイビーで白い折り返し。前の試合が終わり、ユニフォームに身を包んだフィフティーンが、佑子を前にそろって、そして胸を張る。

「きみたちが、精一杯やってきたことを私は知っている。それはきっとウソをつかないから、仲間を信じて頑張ろう。自分たちだけの、ティームなんだよ!」

保谷くんは、不敵な笑みを浮かべる。石宮くんは、両手で自分の頬を叩く。西崎くんは、広めに開いた両足に力を込めて上体を沈めた。

「出番だぜ」