同じような体験はその年の冬にもあった。私は毛布を二枚ほどかけ、暖かくして布団の中へ潜り込む。明かりを消し、うとうとしてきたその時、背中に鋭い寒気が走った。ゾクゾクとした酷い悪寒のようなものが背中にだけ突き刺さる。

真っ白な顔の長い黒髪の女が、私の胸の上に佇んで顔を覗き込んでいた。急に目の前に現れた女の姿に恐怖を感じ、力いっぱいに目を閉じた。金縛りに合うと目は勝手に開いてしまうため、見ないように力強く閉じ、瞼に全集中しなければならない。

お母さん! と声を出そうとするものの、出てこない。ぅ……、ぁ……、くらい_には出ていたのかもしれないが、腹の底から力を振り絞ろうとしても、体はコントロールを失っている。どのくらい時間が経ったのかは分からない。そのまま気づけば朝になっていた。

この現象が週に一度のペースから、三日に一度になった。普段から真っ暗にして寝るのだが、あまりにも怖かったために電気を付けて寝るようにする。部屋を明るくしても、寝るとやはり鋭い悪寒が背中に走り、直後、金縛りにあった。目をうっかり開けてしまった時には、私の顔の目の前に真っ白な女の顔がある。

私は恐怖の渦中から抜け出せなくなってしまった。

「もう無理、なんとかしてほしい」

そう母にすがっていた私を心配に思って、母はお祓いなど請け負う真言宗の女性の元へ連れて行ってくれた。そこで分かったことは私の前に現れる女性が今は亡き父方の祖母なのだということ。

祖母は兄がお腹の中にいるとき、男の子だと知っていながらも女の子の名前を付けようとするほど女の子を欲しがった。次の妊娠で私を授かったことを誰よりも待ち望んでいたのはいうまでもない。だが私が産まれる前に祖母は心臓を悪くし、六十三歳という若さで亡くなった。

私の誕生日が父方の叔父の誕生日と同じなのも、なにか祖母の因縁を感じる。そんな祖母は亡くなったあと、ずっと私を見守っていたそうだ。親権が母に変わったことで父との関係が疎遠になり、私が離れていかないように、会いに来てくれたのだとその女性は言う。

私は幽霊の存在を信じていたため、それが祖母だと分かったことや怖いものではないと知れただけで、とても気持ちが軽くなった。その後は助言通りに、盛り塩を家の指定された各場所に置き、線香をたいた。

心が安定すると徐々に金縛りが収まった。スピリチュアルなことを信じるか信じないかはどうでもよく、言えることはそれほどまでに私の精神は崩壊し、何かに追いつめられていたということ。私にとって親の離婚のダメージは大きかったのだ。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『拝啓、母さん父さん』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。