2008年

好きな音楽はレディオヘッド

Radiohead(レディオヘッド)というロックグループの名前を知っているだろうか。以前シャルル・アズナブールのコンサートに行った話を書いたが、その数日後、経理係長のカトリーヌに「コンサートはとても良かった。でも観客は中年以上で若い人は少なかった」と言うと、「シャルル・アズナブールは年寄りだけでなく若者にも人気があるよ。でもいま、私はこんなのを聴いてるわ」とバッグからCDを取り出した。

そのグループがレディオヘッドであった。「あ、それは知らないなあ」と言うと、「私はこのグループのCD、全部持っているよ。よかったらコピーする?」「うん、じゃあ貸して」ということになった。

カトリーヌはバレーボールをやっていたというだけあってスリムでいかにも運動神経がよさそう。時々りんごを丸ごとかじりながらガツガツと仕事をしている(会社の休憩室の自動販売機でサンドイッチなどと共にりんごも売っているのだ)。

次に経営企画のマリーに、カトリーヌから借りてきたレディオヘッドのCDの話をすると、「私も大好き。全部CD持っているよ」という反応。ふ〜ん、そんなに人気があるのか。

マリーはフランス人と結婚しているスウェーデン人。一年前に産休明けで復帰した。金髪、長身、目が少々つりあがっていて、同じくつりあがり気味のメガネをかけている。年齢三十歳前後(と見た)。以前は南仏のエクサン・プロヴァンスに住んでいたこともある彼女「ニースの海岸よりブルターニュの海岸のほうが私は好き、ニースの海岸は車や人が多すぎるから」とブルターニュ好き。

それには私も同感である。ブルターニュの海岸の美しさはニースに決してひけをとらないと私も思う。

次は人事のノエミー。レディオヘッドのCDを見せると、これまた「よく知っているよ、私CD全部持っている」と言う。へえ彼女もか。

ノエミーは会社の社員ではなく学生。フランスでは学生が授業の傍ら、会社で仕事をする制度があり、週のうち三日会社で働き、二日は大学の授業に出るというようなパターンで就業経験を積むのである。法律でそうした学生を従業員の何%以上雇用しなければならないと決められていて、その率に達しないと会社は罰金を払わなければならない。日本の障害者雇用率のようなものだ(障害者雇用についてはフランスも同様の制度になっている)

。日本のインターンシップのようなものだが、期間が長く半年とか一年、きちんと雇用契約を結ぶ。従って単なる補助ではなく役割も与えられる。但し、社会保険料免除などの優遇処置があり、またフランスの最低賃金法の適用除外になっているので企業にとってもコスト面でメリットがある。

このように二十代から三十代の三人ともが全員CDを持っているというレディオヘッドははてどんなものかなと聴いてみた。アルバムは『In Rainbows』。ん? なんだこりゃ、これが本当にいいの? というのが私の第一印象。

ラップとも違う。ビートがきいていてドライブミュージックに最適というのでもない。ごりごりのハードロックとも違う。ちょっと不思議なサウンド。インターネットで検索するとこれまで七枚のアルバムを出しているイギリスのロックグループということだ。日本公演もしたことがあるらしい。このサウンド、何回か聴いているうちになかなか味があるなあと思えてきた。

夜にワインを飲みながら聴くと、その不思議な世界に惹きこまれている自分に気がつく。以来しばらく毎晩聴いていた。さてCDを借りたお礼に何をカトリーヌに贈ったらいいかと考えた末、中森明菜にした。アルバム『Destination』をコピーした。反応は「歌詞はわからないけれど、彼女の声は素敵ね」というものだった。それ以上のコメントはなく、きっとあまり興味をそそられなかったに違いない。

※本記事は、2018年10月刊行の書籍『ブルターニュ残照』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。