説明の最後の所では勇み足で、ありきたりの説明からはみだし、うっかり余計なことを言ってしまったかと思い、すぐに後悔した。呼称に関しても年長の元同僚の配偶者を姓で呼ばず、『奥さん』はまだしも、『恭子さん』と言ってしまった。しかし出てしまった言葉はもはや撤回するとかえって相手に色んな臆測を呼び起こしてしまう。そのまま平静を装い、来栖はなんでも続けて答えますよという顔をして相手の反応を待った。

しかしここで二人の会話はいったん途切れてしまい、少し気まずい沈黙のあと、会話は全く別の内容に移っていった。

「恭子とは普通に見合いで知り合ったのですが、お互いに会ってからすぐさま断ってしまう理由もないというようなことでしょうかね、つき合いが始まったのではないかと思います。そういう関係でのつき合いのままで、お互いに相手が嫌だとかの意思表示もなく婚約にまで事が進んでしまいまして、その期間が半年ぐらいあったでしょうか、それが終わると別に取りたてて支障も出てこないということで、結婚というところにまで行きついたといったところです。

恭子のほうも同じような思いだったということは、結婚してだいぶ経った頃に本人から聞きました。妻のことでさっきは『好みをはっきり言ってしまうタイプ』とおっしゃってましたが、どうも私と結婚するようになるということでは、のんびりと成り行きに任せて決めていったというところでしょうかね。

今の私にとっては反省材料の一つになりますが、恭子と文化的な催しなどに一緒に出掛けたことなど婚約中に一回か二回あったかなというぐらいで、結婚してからは夫婦で食事に出かけるというようなこともほとんどしませんでした。それに……」

ここまで聞いたところで、来栖は自責の念を抱いているような高梨が恭子に結婚生活に何か物足りないものを感じ取った妻というような先入観を持ってしまい、話題を全部そちらに振り向けてしまうのではと恐れた。

そこで話の行先を転じようとして、高梨の話をさえぎった。恭子を中心に考え、彼女が日常の夫婦生活に不満を抱いて他の男にはけ口を求めたのではないかといった疑問をぶつけてくるのではないかと恐れたこともある。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『ミレニアムの黄昏』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。