そんなシャーリーに「よく売れるね」とか「儲かってるね」とか声をかけると、彼女は腕をつねってきたりウィンクを返したりしてきた。また、女の子を呼んで話す時は一対一と決めていた。何人もの女の子を呼んで、ドンチャン騒ぎをしている客も中にはいたが、そんな飲み方は非常にLD代がかさむ。

正嗣も一度他の店で三人のダンサーを相手に飲むはめになり、お代わりをねだられるとダメとは言いづらく、結局みんなに許した。その結果非常に高い飲み代を払わされたことがあったのだ。LD代の半分は女の子へのキックバックとなるため、遠慮を知らない子はここぞとばかりに何杯も飲むのだ。

酒が飲めない子はコーラ等を飲んでいたが、ここでは大半の子がマルガリータを注文していた。逆三角形のカクテルグラスに入ったマルガリータは薄暗い店内で水色の蛍光色を放ち怪しく光って見えた。

ノアズアークには一五〇人近いダンサーが所属しているらしいが、一日当たり平均するとその六割ほどが出勤しているとのことだ。ダンサーは番号のついた赤いプラスチック製の丸バッジを付けており、ステージ上で十数人のダンサーが五、六曲踊っては交代している。

客から指名され、店外連れ出しの交渉が成立した子は、バッジを外す。水着姿でもバッジをしていなければ、売約済みということ。そして、私服に着替え客と店を出る。その時、白人客は大体が女の子と手を繋いでルンルン気分で出ていく。日本人の場合は、男の後を女の子が付き従っていくようだ。そんな些細なことを比較するのも面白かった。

客から注文を取るのは白いブラウスに黒いタイトスカート姿の若いレセプショニストたちの仕事だ。そのレセプショニストの何人かは青色の番号バッジを付けている。それはゴーゴーダンサー同様、連れ出しが可能だという印だった。ジョアンに初めて会ったのは、彼女がこのノアズアークという店でレセプショニストとして働き始めた日だった。

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『サンパギータの残り香』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。