これは最近の現象だろうか。“すみません”と言ってから行動する人が少なくなったと感じるのは私だけだろうか。日本社会は単一民族で均一化されているので多くを語らなくても通じ合える社会だというのが通説である。あ・うんの呼吸などという言葉はそれを象徴しているとしてよく引用される。だがそれは挨拶したあとの話であって、昔は挨拶するのは当たり前のことだったのではないだろうか。

小さい頃、母親から「道で近所の人に会ったら必ず仁義する(挨拶するという意味)ように」と何度も言われた記憶がある。フランスでも親から挨拶するようにと教育されるという。会社でも企業委員会(日本の会社では労使協議会に相当する会社と組合との定例会議)で「最近挨拶をしない人が増えた」ことが話題になったりする。こうした傾向は日本もフランスも同様なのかもしれない。

でも日本人の私から見ると、フランスはとてもよく挨拶する社会だと感じる。以前は日本に来た外国人は一様に日本人の礼儀正しさに感動したという話がたくさんあった気がするが、最近はさっぱり聞かなくなった。礼儀正しい日本人は遠い昔のことになってしまった。

それにしても日本の現在の「無言社会」は異常だと思う。ニート、引きこもり、すぐキレル人などコミュニケーションの問題が声高に叫ばれる昨今の日本だが、そのとっかかりとなる挨拶がきちんできなければ、コミュニケーションの改善などおぼつかないのではないだろうか。

※本記事は、2018年10月刊行の書籍『ブルターニュ残照』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。