赤ん坊を取り出すため…

健一がバキュームカーの後ろでボーっと立っていると、スーツを着た刑事らしい人物がやってきて、「西方署の下条と言います。あなたが、赤ん坊を見つけた方ですか」と警察手帳を見せて健一に話しかけてきた。

健一がそうであることを伝えると、

「ではまず、お名前と住所、それから電話番号を教えてください。それとついでに会社名と住所、電話番号もお願いします」

と矢継ぎ早に聞いてきた。健一が聞かれたことに答えると、それらを手帳に記入しながら今度は、

「それではトイレで赤ん坊を見つけた経緯を大体で結構ですので教えてください」

と聞いてきた。

健一は、順を追って話した。この家のトイレの汲み取り作業をしていたら、おもちゃの人形のような物が見えたこと。何かなと思い周りの糞尿をどかしながら吸引用のホースで吸い付けて、たぐり寄せようとしたら、表面の皮や髪の毛がズルズル、ズルっと剥がれたこと。その反動で、その人形のようなものが半回転して顔が見え、よく見たら本物の赤ん坊だったこと。その作業は今から三十分前ぐらいに先輩の内村と行っていたことと、その内村は先に会社に帰ったことも話した。

下条に、

「詳しいことは、西方警察署の方までおいでいただいてお聞きしたいのですが、この後お時間はありますか。それから内村さんにも警察に来ていただくように、こちらからお願いしますので」

と言われたので、健一は警察の聴取に協力することを承諾した。下条は、

「それは助かります。よろしくお願いします」

と言って現場の鑑識係の人たちの方へ行った。そして、何か話していたと思ったら、また戻ってきて、

「すみません。鑑識の方で、大小便の水位が高いので、赤ん坊が便槽の穴に引っかかってしまうようです。損傷が少ない状態で取り出したいので、もう少し汲み取ってもらえないか、と言っているのですが、やってもらえますか」

と聞いてきた。そして、汲み取りするときに、できるだけ「へその緒」を吸い込まないようにして残してほしい、と言うのだ。おかしなことを頼むもんだと思って、わけを尋ねると、へその緒が付いているかどうか、どのように切れているかによって、母親が、過失致死罪になるか、殺人罪になるかの判断が違ってくるからだ、とのことだった。

へその緒がなければ、確かに他の場所で産んで便所の中に遺棄した可能性も出てくる。一方、へその緒があって故意に切り取られた跡がなければ、極端に安産な場合、誤って産み落としてしまうこともあり得るかもしれないな。などと健一は想像してみた。