そんな時、新型コロナウイルスの感染の波がやって来た。学校は臨時休校となり、部活動は長い休止期間を迎え、何もできない日々が長く続いた。「こんな状況が続いたら、Yさんの技量は、また元の初級者の域に戻ってしまうのではないか」私はそんな心配をしていた。

生来、高い運動能力をもっている選手は、しばらく練習できないブランクがあっても、一時間程度の練習で、元の状態に近いレベルまでプレーの感覚を取り戻すことができる。しかし、どう考えてもYさんは、それに該当しない。努力、努力で自分の実力を積み上げてきた、言うならば「不器用なタイプ」だ。

約二か月の休止期間を経て、部活動は再開された。少しずつではあるが、活動時間が得られるようになった。約三か月ぶりに催された校内リーグ戦。Yさんの積極的な攻撃の姿勢は変わらなかった。きっと毎日素振りを繰り返していたのだろう。彼女とダブルスを組んでいた前衛も、ミスを怖れない勇気あるプレーの姿勢を維持した。

一、二番手のペアをどんどん追い詰めていく。彼女が得意の「バックハンドのカットサーブ」の構えに入ると、相手の選手たちの表情が途端に弱気を見せる。それをようやく返球し、打ち合いに入ると、信じられないような強打が、彼女の小さな身体から繰り出される。一瞬彼女のラケットのみ、他の選手よりも極端に長いような錯覚さえ覚える。Yさんのペアは、リーグ内で堂々の一位となった。

新型コロナウイルスの感染の勢いは、選手たちが切望していた学校総合大会の開催を許さなかった。私は、町内の三つの学校の選手を集め、記念試合としての団体戦を企画した。他校の顧問の先生方も快く賛同してくれて、三年生はその試合を節目として引退することになった。

Aチームの団体戦に出場したYさんのペアは、校内リーグ戦の時と同様の快進撃を見せた。小さな大会ではあったが、Yさんが流し続けた悔し涙はこの大会で報われ、彼女自身が大きく成長した姿が、私の目の前で力強く躍動した。彼女は、負け知らずの連勝を飾った。決して記録に残る勝利ではないかもしれないが、顧問の私と、彼女自身の胸に、いつまでも刻みつけられる勝利であったと思う。