長男がまた新しい事業を始めるらしいと知った源蔵さんは、これ以上自然を破壊する儲け仕事に我慢ならなくなった。金の亡者になってしまったのか、一言言ってやりたいと思い神様仏様八百万の神仏に頼んだ。すると「生きた人間と話したときから幽霊でいられなくなる、息子たちと話したら二十四時間以内に天国へ戻れ」と神仏は言い放った。

源蔵さんは二人の様子を見ていて、どうしても二人の気持ちを確かめ、自分の夢を果たしてほしいと思った。長男がぐっすり眠っている仏間に源蔵さんの幽霊はいた。長男は夢うつつ、父親を見た気がした。

「おやじどうした、生きていたのか」

「幽霊じゃよ」

「幽霊? 俺は親父に化けて出られるような悪いことはしていない。そうだ、俺の事業を見てくれたか、親父の夢を受け継ぎ有効に土地活用をして、ゴルフ場は成功した」

「そうか」

「今度はフラワーパークを作るつもりだ」

「フラワーパーク?」

「遊園地みたいなものだね。ここは空港に近いし、見晴らしも良い。日本中の花を集めて,温室も作る。周りはひまわり畑にするよ。レストランも作るんだ」

長男は自分の夢を延々と語りだした。親父の夢を受け継ぐと言われ、源蔵さんは昔、そんな話を寝物語に息子たちにしたことを思い出した。これは自分の夢の実現だったのかとびっくりした。

次男は狭い家の奥間に寒そうに寝ていた。源蔵さんが枕元に現れると、うっすらと目を開けて声をかけてきた。

「おやじの幽霊か?」

「そうじゃ、心配で見に来たよ」

「親父の言いつけ通り、沢を守り、自然の中で生きているよ」

「沢を守っている?」

「沢の水資源である森を買い取ったんだ。上の土地を売らなければならなかったけど、森のおかげで湧水は切れることがない。森が伐採されそうなので、借金しても守ろうと、思い切って、森を買って良かったよ。自然は素晴らしい。ここでは野菜も家畜も元気に育っているよ。兄貴がレストランを開いたら、有機野菜を使ってもらえそうなんだ」

次男も源蔵さんの夢を受け継いだと言い、自分の夢を延々と話した。源蔵さんはまたもや、昔、そんな話をしたことを思い出し、びっくりした。

※本記事は、2021年9月刊行の書籍『癒しの老話』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。