憧れのナポリと青の洞窟

さて洞窟の中へ入ると涼しいのである。これが洞窟住居の特徴で、冬は逆に暖かいのだ。洞窟の快適性は究極のところ天然の空調設備である。洞窟住居は結構広く、馬小屋まである。世界遺産がアルベロベッロと共にマテーラを選定したのは、南イタリアの苛酷な風土に対抗した住居の知恵に注目したのだと納得した。

昼食後バスは二五〇キロ先のナポリに向かって出発した。道中は山地の過疎地帯なので特に語ることもない。ベスビアス火山の姿が見えて来た時は感動した。

ここでナポリの歴史について触れておこう。BC六世紀頃ギリシャ植民者が建設しBC四世紀後半にローマの支配下に入り、海港都市として栄え、その風光の美しさのためにローマ市民愛好の地となった。

八世紀ごろよりビザンチンの下で共和国になり、サラセンなどと大いに交易した。一三世紀に神聖ローマ帝国の支配下のもとナポリ大学が創設され、パレルモの宮廷と共に時代を代表する文化の中心になった。またアラゴン家のもとナポリ王国が誕生した。

その後多くの支配者が登場し、一七世紀には長年の外国人支配者の虐政に一揆がおきたりしたが成功しなかった。更に悪政と独立がくりかえされたが一八六一年ガリバルディのイタリア統一に至った。

夕暮れのナポリ市内へ入り夕食で鳥のもも肉にかぶりついた。ツアーに父母娘の賑やかな三人組がいたが、十八歳くらいの娘が「ナポリを見て死ね、というけれど、お父さんが一番先に死ぬのでしょう」とやや不安そうに言って、みんな大笑い。七年前のナポリ・サミットで時の村山首相がなれないフルコースを平らげてダウンということもあった。

第五日が明け、朝のナポリの空は快晴。途中「ウンベルト一世のガレリア」はミラノを凌ぐ壮大なアーケード。サンタルチア埠頭を窓外に見てフェリー乗り場に着いた。その日の見物はカプリ島の最近開発された観光地「青の洞窟」の見学である。何しろナポリ付近のカンパーニア州は名所旧跡数知れず。一昨年の正月にNHKテレビで中継したソレントは特に印象的だった。しかし現場で見るべきは青の洞窟ということで、どのツアーも皆ここへ行く。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『21世紀の驚くべき海外旅行II』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。