しかし、この複合的な陣形を取るには、体力と気力がいる。複数のオフェンスラインを敷き、片方はダミーになるのだから、犠牲を厭わない献身と、オフ・ザ・ボールの状態にいる残り全員が全力で走る必要がある。また、深いラインを敷いた結果、パスの距離は長くなる。正確で早いロングパスを放り、それを確実にキャッチできる捕球技術が求められる。

イングランドは、これらの要素をすべて含んだ攻撃を、一番体力のあるキックオフ直後のリターンオフェンスに仕掛けた。当惑したオールブラックスは受けに回り、ズルズルと後退を余儀なくされた。我慢して飛び込まず、スペースを与えなかったのはさすがだったが、少しずつ前進を許し、最後はゴールポスト下にトライされてしまった。試合開始後わずか3分のことだった。

2年半かけて周到に準備してきたこのトライで、イングランドは自信を深め、オールブラックスは対応の変更を余儀なくされた。このようにして、イングランドのゲームプランは見事に成功を収め、予想以上に優位な展開に持ち込むことができた。

この輝かしい勝利は、予選リーグ敗退という無残な結果を直視し、敢えて外国人監督を招聘したイングランド協会の勇気ある決断と、その危機意識を理解し就任を快諾したエディー、そして当惑しつつもエディーが繰り出す改革に付いていった選手たちの共同作業の賜物だと言える。

「無残な現実を直視し、そこから起死回生の一手を講じ、見事に復活を果たす」そういう例は、実は他にもある。好例が、1980年代にアメリカが立てた、競争力を回復するための戦略である。当時、アメリカは、国際収支が大幅な赤字となり、財政赤字も累積するという、双子の赤字に苦しんでいた。そこでレーガン政権は、産業政策の転換と金融財政政策の見直しを大胆に進めた。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『未来を拓く洞察力 真に自立した現代人になるために』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。