蚕ロボット

ここで主要ロボットの紹介をすると、最初に完成したのが通称、蚕ロボ、正式表示はSI─201号機、製作基数は10基。口から炭素繊維を出して船体を構築する。その大きさは全長30メートルほどで、芋虫の格好をしており、船の外形となる風船の周りを這い回りながら繭を作っていき、船体の基本骨格を作り出すものである。

口から吐き出される糸は、蚕ロボの中で原料から製造され、繊維の太さはその場所によって調整する精密さである。船の大きさは全長4キロメートルもあるので10基というか10匹の蚕ロボが24時間風船の中と外を這いずり回り作り続ける。本物の蚕と違うところといえば、吐き出す繊維が白色ではなく黒色であることぐらいである。

4キロメートルの真ん中が膨らんだ葉巻型の船体ができると、蚕ロボは船体の中に入り、前部と後部の卵型エンジンルームの建造に入る。その卵型のエンジンルームは全長千メートルほどで前方と後方の2か所にあり、そのエンジンルームにはさまれて、居住用の真ん丸い外側950メートルのドームがある。

そして、この外側の丸いドームの中に900メートルの回転する丸い内側ドームを建造する。この内側ドームが回転して遠心力を作り、重力と同じ役割を果たし安定した空間を作り出す仕組みである。この内側ドームは、リニアモーターによる磁気浮上式で常に浮き上がっている構造で、ドーム内を流れる空気の対流によるわずかな力で回転できるようになっている。

この蚕ロボットがつくった形状は、黒色の炭素繊維であるので完成した船の外形も真っ黒であり、まるで木の枝にぶら下がるミノムシのようである。この繭だけでは空気がす通しのため、次のタコロボットが宇宙船用金属粉入り強化FRPでコーティングして固めていく。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『U リターン 【文庫改訂版】』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。