2007年

滞在許可証

滞在許可証の有効期間は一年間(二〇〇七年当時)、毎年更新しなければならない。先日二回目の更新のために、レンヌ市内の県庁に行ってきた。パスポート、写真、直近三ヵ月の給与明細のコピー、フランス電力かフランステレコムの請求書のコピーなどの書類を用意していかなくてはならない。

県庁の窓口は九時に開くが、寒い外で待つのが嫌だったので少し前に着くように行くと、すでに多くの人が並んでシャッターが開くのを待っていた。扉が開けられ、自動受付機で券を取る。二十三番目。受付券を持ってétranger(エトランジェ:外国人)のコーナーで待つ。

見渡すとアフリカ系、中東系、東欧系そして私のような東洋系など多様な民族の人たちが座っている。カップルで来る人、家族連れ、または友達同士連れ立って来ている人もいる。ひたすら順番を待つ。

電光掲示板に受付番号と窓口の番号が表示される。日本の役所とほぼ同じシステム。表示の番号が変わるたびにブザーが鳴るので、その音を聞くと、皆一斉に電光掲示板に目をやる。

椅子に座ってぼんやり窓口を見ていると、役所の人と懸命にやりあっている人がいる。きっと書類の不備か何かを指摘され必死に食い下がっているのだろう。

次はある男女のカップル。男のほうがこれまた延々説明している。窓口の担当者は冷たい表情でダメというようなそぶりを繰り返している。男は粘りに粘っていたが、とうとう連れの女性が「もう、行こうよ」とばかりに男性を促し、仕方なく男はあきらめて立ち上がった。

こうしたやり取りがあるものだからやたらに時間がかかる。並び始めてはや一時間が経過。私の順番はまだまだ。待合所の中に黒人カップルとその子供がいた。まだよちよち歩きの女の子、とても可愛い。他の人のところまでよちよち歩いて行くと、皆微笑んで相手をしている。

長時間待たされても、待合所の雰囲気はあまり殺伐としたものではない。皆、「フランス社会はしょうがないや」とあきらめている様子。時々、順番でもない人が割り込んで窓口の人に話しかけているが、文句を言う人はいない。その点日本人は気が短く、ルールを守れよ! と頭に血が上る場面である。

それにしてもフランスの役人の態度は最悪だ。つっけんどんだし、愛想のアの字もない。ストライキは平気でするし(実は滞在許可証の更新で、前の週に来てみたらスト決行中で無駄足になったのであった)、威張っているし……、と悪口を言い始めたら切りがなくなりそうだ。

ようやく順番が来た。何か不備があってフランス語で聞かれても解らないので、事前に必要な書類の確認は念入りにすませている。だから問題はないはずである。なんとか無事に仮の滞在許可証をもらうことができた、ほっ! 時間を見たら午前十一時を過ぎていた。いやはや。

※本記事は、2018年10月刊行の書籍『ブルターニュ残照』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。