第二章【反発】

父と明日香に連絡がつかず不安に苛まれながらも、明日美なりに結論めいたものを導き出した。

「もしかしてこれは……」

心の侵入者は何か異変が起きるのを待っているのかもしれない、不意にそんな気がして、構えて変化を探ってみる。それでもそれが何なのかまでは今の明日美の力で感じとることはできなかった。ただ得体のしれない恐ろしさだけは確かに感じていた。

不意に時間が気になりだし、腕に時計を探してみても見当たらない、置き忘れてきている。仕方なく手にしていた携帯電話で時間を確認してみると、すでに午後の2時を過ぎているが、それでもなお何の変化も起きる気配がない。

もう少し手掛かりを探してみようと思い、気になっていた祠の裏手に向かって歩いていく。そこは周りが高い樹木で囲まれていた中に、目立ってその一方向だけが開けて見えていた場所で、いつの間にかその一部分だけが崩れ落ちてしまったのだろう。

おそるおそる近づき、覗き込むようにして見ると、予想どおりに岩肌が露出した荒々しく険しい断崖だった。その中央に先の尖った大きな岩が空に向かい、斜面に突き刺さるようにせり出している。

明日美は元来高い場所は好きではないので、早々に引返きそうと戻り掛けたその時に、着信履歴を見た父から電話がかかってきた。何の根拠もなしにこの機会を逃せば後はない、そんな予感を覚え、携帯電話を耳に当てるやいなや、今に至るまでの経緯を一方的に、そして一気に話し出した。しかしこのような奇怪な話は信じてもらえるわけもないと、懐疑的な思いを持っていた。

ところが意外なことに現実はまるで違って、緊迫感漂う父の荒い息遣いが聞こえてきたのである。元より怪しい資質の父だったが、真剣みが伝わってくるほどの生々しさだ。

その父が何かを話し始めたその瞬間、重く低い音が地面の下から響いてくるではないか。地の底から湧いてきたといったほうが当てはまるかもしれない。とにかくこれまでに聞いた経験がない不気味な音が響いてきたのだ。レオも異変を感じたのか、またも唸り声をあげている。

「これって何、もしかして地鳴りじゃないの!」

そして何かを感じ、ついに解明した。心の侵入者の意図を。

「あなたはこれを待っていたのね」

しかし今はどうすることもできない。ついにやってきたのだ。明日美の運命を変える大事件の時。後に東日本大震災と名づけられることになる大地震が――

※本記事は、2021年8月刊行の書籍『魏志倭人外伝』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。