落ち着きを取り戻したあと事態が飲み込めて来たところで、辻褄が少しずつあっていく。父が家にいなかったあの時間は女に会っていた時間だ。毎日の帰りが遅いのは女と会っていたから。頻繁にケーキを買ってくるのは、恐らく女の家の近くにあり、罪悪感からか、女のついでか。

どちらかというと、真面目なサラリーマンという風貌だし、不倫とは無縁に見える。法律のテレビ番組で不倫についての話は何度も耳にしたが、その度に「うちは大丈夫、それはテレビの中の話」くらいにしか思っていなかった。その不倫問題が私の家で勃発した。不倫が原因で両親が離婚。自分の身に起こるなんて夢にも思わなかった。

この十数年ずっと父のことを尊敬していた。怒られるのは自分が悪いことをしたときや、勉強をさぼったとき。自分がいい子であればいいだけだと、そう信じて疑わなかった。それなのに父はずっと母ではない女性と会い続け、母を、家族を、裏切り続けていた。

体中が芯から熱くなっていく。お父さんが憎い。絶対に、永遠に、許さない。しばらくの間、父は同じ屋根の下で生活を続けることになった。あの日以来、家の中の雰囲気は一層重々しい。

母と父は家の権利、養育費、親権等の話し合いを家庭裁判所を通して続けた。離婚をしたくない父は、私と兄の大学の費用を払わないと主張する。そう言えば離婚をしないとでも思っているのかと腹が立った。いつも私が寝静まった後に家族会議が始まるので、何が行われているか一切知らない。

「僕の分はいいから里奈の分だけでも払ってくれ」

後になって、兄が私のために懇願していたことを母に聞かされて知ることになる。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『拝啓、母さん父さん』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。