呼吸器系 危険が充満

人間には、外界と接する二つの通路があります。一つは消化管、もう一つは気道系です。消化管は口腔で食物を摂取し、食道、胃、小腸、大腸から肛門で排泄するという外界連絡路です。

これに対し、気道系は鼻腔から吸入し、喉頭、気管、気管支を経て肺胞でガス交換をするという通路ですが、出口がない盲管となっています。呼吸は、酸素を供給して、炭酸ガスを排出する、人間にとってはまさに命綱です。ところがここには、残気という役立たずの部分が存在します。それは気道内の空気の三分の一にも達し、呼吸にともなって行ったり来たりしているのです。一方、鳥類には、気嚢というシステムがあり、気道は常に一方向です。それが酸素の少ない天空を飛ぶことを可能にしています。

呼吸系には危険が一杯ある

気道系には、死因につながる疾患や障害が一杯あります。まず窒息があります。

死因のなかでは、肺炎が五位、誤嚥性肺炎が七位で同じ肺炎でありながら、二つに分かれ、死因上位の座を占めています。さらに男性では閉塞性肺疾患(COPD)が死因の第九位となっています。悪性新生物は死因の首位ですが、がんのトップは肺がん、気管支がんです。

窒息に気をつける

毎年、正月になると、餅を咽喉につかえやすいからという理由で、老人ホームでは雑煮が出ません。しかし窒息は、かなり多い事故で、つかえるものは餅とは限らないのです。私が東京都老人医療センター(現健康長寿医療センター)に勤務していたとき、ある病院から認知症を併発している女性の患者が送られてきました。一般病棟に入院させましたが、入院翌日、病棟内を歩行中に食物を咽喉に詰まらせて亡くなりました。またある例では幸いにして一命をとりとめましたが、無酸素の状態が脳機能を奪い、廃人のような状態になってしまいました。脳が機能を回復し得るのは、五分までです。救急措置は速やかに、二、三分で完了すべきです。

私は退職後、ある旅行会社のツアーで、岡山の城崎温泉に宿泊しました。朝、各自が決められた席で食事をとっていた際、前の列で背中を見せていた女性がいきなり横に倒れました。大騒ぎになりましたが、私がそばに行ってみると、脈は触れず、呼吸も止まって、意識がありませんでした。心肺停止状態で、このままでは亡くなる危険があります。私は座布団をくるめて首のところにあて、下顎を前に出しました。すると女性は息を吹き返し、動脈には力強い拍動が触れるようになりました。

何が起こったか、私にもよく分かりません。救急車が十分くらいで来ましたが、そのときには女性は何ともありませんでした。近くの病院は、二十キロメートル離れています。とにかくとっさに気道を確保したのが良かったと思います。窒息が疑われるとき、まず気道を確保すること、それには下顎を前に出すようにすること、同時に背中を強打するか、胸骨を強く押して呼気を出すことが大事です。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『健康長寿の道を歩んで』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。