八月二一日正午過ぎ、正嗣は幾世の見送りで空港に来ていた。幾世のフライトのチェックインも済ませ、二人はターミナルビルの端にあるカフェテリアスタイルのレストランでコーヒーを飲んでいた。

「幾世さん、あと二〇分くらい大丈夫ですか」

「うん、そうだね」

「やっぱり昨日カルロスが言っていた通り、人が多いですね」

「うん、普段の倍ぐらいいそうだね。でも、どの便で帰ってくるのか、みんな知っているのかなあ」

「現政府はニノイに帰ってきて欲しくない訳だから、外交ルートでニノイを乗せるなってフィリピンに乗り入れている国のエアラインに圧力をかけているって話ですよね」

「そうなると国交のない国のキャリアーを選ぶんだろうね」

「乗せる方もリスクありますからね」

「国交があったら、国交断絶になりかねないからね」

「さっき空港に入る間際やたらと黄色いリボンが目立っていましたけど、何か意味があるんですか」

「あれ、晝間君知らないかな、『幸せの黄色いリボン』の話。歌にもなっているけど」

「知らないです。どんな話ですか」

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『サンパギータの残り香』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。