職員室の風景~お局様と老獪な先輩たち~

私が配属された教務部という部署は、主に時間割作成、定期考査、入学者選抜、教科書選定、講師連絡などを担当するところであった。そこには、50代後半の保健体育科の女性教師がいた。お局様のような、いうなれば、師範学校出の折り目正しい背筋のピンと伸びた、厳しい“教育係”とでもいった女性教師であった。

私はその方に、着任早々、「新米教師の心得」を伝授された。まず、誰よりも早く出勤し、先輩教師の机を雑巾がけする。次に湯を沸かし、職員室にあるすべての魔法瓶(4、5本?)に湯を満たす。そして先輩が出勤するや「おはようございます」と元気よく挨拶し、お茶を差し出す。これが新米のやるべき“朝のお務め”(日課)であるとの教えを受けた。

さて、授業も終わり放課後ともなると、これまで流れていた空気は一変し、職員室の一角に4、5人の塊が2つ、3つできる。何をしているのかと覗き込むと、囲碁、将棋に興じているではないか。さらに別の年輩グループは、テレビの前に集まって相撲中継に見入っている。

そんな中、傍らの自席で授業準備をしていると、漏れ聞こえてくるのは、退職金の話である。「退職金で別荘を買うつもりだが、いい物件はないか」「早期退職(勧奨退職)だと、どれくらいもらえるのか」といった話である。

20代の若手には全く無縁の“桁外れな数字”が飛び交う。我々世代の退職金とは全く比べ物にならない程の高額なものであった。今ではとても考えられない、「デモシカ天国」だったということだ。

ところで、午後5時の退勤時刻を過ぎると、そうした先輩たちは、「待ってました」とばかり、一目散に校門を出て、行きつけの雀荘へ。そうでないグループは、駅前の居酒屋「○○乃瀧」の暖簾をくぐる。先輩たちは、よくホッピーという安価な酒を注文していた。

そうした先輩たちからよく誘われ、断るのが大変であった。授業準備や教材研究を口実に断ろうとすると、「“飲むこと”が生きた勉強」といって叱られた。翌日、飲みすぎて出勤に間に合わなかったり、酒臭い状態で教壇に立ったりと、今では考えられない光景があちらこちらに見られた。そういえば、教頭席も、朝からプンプンと臭っていた気がする。