居並ぶ先生方の姿に緊張して、佑子は一番後ろの席に座っていた。高校生の頃に公式戦会場で見かけたベテランの先生や、ついこの間まで現役でプレーしてました、という感じの若手の先生。三月初旬の、湘南地区の名門である(くげ)(ぬま)俊英(しゅんえい)高校のホール、ラグビー顧問総会の席である。

前の役員席についている山名と、佑子の斜め前に座っている山本くらいしか、親しく言葉を交わした先生はいないのだ。この間の様々な場面での接点で、男性ばかりの会場の中に佑子がいて挨拶しても、あぁ、大磯東さんのね、という受け止めはされているみたいだ。

メールで届いた会議の資料はプリントアウトしてきて手元にある。でも、具体的に話が進まないと分からないことも色々あり、各部会の委員長の先生の説明を、一言も聞きもらすまいと集中した。議事と説明が進んでいくうちに、県の高校ラグビーがどんなスケジュールでどんな風に運営され、どんな分担でどんな問題があるのか、ぼんやりと分かってきたし、そんな細かいところにまで目配りしているのか、と驚くことも少なくない。

議題の最後、専門委員会の来年度人事案が説明されている時だ。山本が後ろを振り向いた。山本は来年度の西相地区委員長に内定している。

「和泉先生、今すぐに返事くれなくてもいいけど、専門委員やってみない?」

「え、無理です」

とっさにそう答えたけれど、今の今まで考えたこともなかった。大きな混乱もなく会議は終わり、若手の先生方が中心になって大会の抽選会の準備が始まる。今度は、抽選会に臨む学校の代表の立場になるのだが、そのタイミングで山名に呼ばれた。

「正直言って、居心地悪かっただろ」

マネージャーと顧問の先生だった頃の感覚が、ちょっと蘇る。

「でもな、専門委員に女性がいることも、必要になってくる。ユーコ、いや和泉先生、やってみないか」

「でも先生、私、プレーヤーじゃなくてマネージャーだったし」

「知ってるよ、コーチ資格の講習会で頑張ってたこと。セーフティアシスタントの講習会では最前列で、って全部聞いてるよ」

「え、でも」

「桜セブンズ、桜フィフティーン、知ってるだろ」

「女子の日本代表ですよね」

「女性の競技人口も増えていくだろう。これから、ヤローばっかりの組織では済まなくなる。女子ラグビーにどう対応するのか、まだ未定の部分も少なくないんだけどな。受け止める組織を組み立てなくちゃならないんだが、そこに女性の委員がいてほしい。どうだ?」

「どうだって。山名先生。こんな、会議の合間に立ち話で言われるような、そんな軽い話じゃないんじゃないですか」

「それはそうか。あはは」

山名は笑いで話を締めくくったけれど、何だか重たい何かが押し寄せてくる気がする。でも、ラグビー部の顧問を引き受けた時から、それは運命づけられていた気もするのだけれど。自分が自分で引き寄せたこと、なのかもしれない。

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『楕円球 この胸に抱いて  大磯東高校ラグビー部誌』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。