花は花として

七分のフルコンタクトマッチを五本、メンバーを入れ替えながらやった。部員たちの表情は様々だけれど、一様にやり切った感を浮かべている。佑子の立場から言えば、大きな怪我がなくて良かったということではあるものの、鼻血や打撲程度では驚かなくなっている自分に、ちょっと戸惑う。

「先生、こういう練習、もっとやりましょうよ」

足立くんは、クールダウンのストレッチが終わると、早速佑子の所に駆け寄って来た。今日の練習への満足度が高いのだろう。抑えめの表情はいつもと同じだけれど、眼差しが鋭い。

「オレも、今日は燃えた。すっげえ面白い」

「人間って、あんなことができるんだね」

今福くんと風間くんが、肩を並べて足立くんと並び立った。

「私としては、正直言って怪我が怖い。でも、今日のミニマッチで、みんなが伸びていることがよく分かったよ。レフリングしながら、私もエキサイトしたし」

ふと、足立くんが眉をひそめる。

「でも先生、一番課題があったのが先生のレフリングかも」

それを言うか、とあと二人の二年生は笑う。

「あれでも一生懸命だったの!」

わざと大げさな言い回しにしたことは、足立くんに伝わっただろうか。

「先生、ぼく、どうだったかな? ちゃんと、やれてたかな」

三人の二年生の後、円城寺くんは不安そうに佑子に寄って来る。普段の、人の良さそうな笑顔に戻っているけれど。

「うん。立派だったよ。最初のトライ、サイコーだった」

ふともらした吐息は、安堵の色。

「きみも、できるんだって、みんな分かったんじゃない?」

「先生が、闘えって、書いてくれたから、ぼく、闘おうって」

「えんちゃん! アフターでもうちょっと、スクラム組もうぜ! えんちゃんいねぇと始まんねぇし!」

西崎くんの声がかかり、円城寺くんは笑顔で振り向く。世界を全部相手にしても負けない、そんな笑顔で。