それ故に今思うのだが、これらの夢は何かしらの暗示なのではないのだろうか、そんな念に駆られていると。

「あ、そっかぁ」

明日美の予知能力が何かを感じとったようだ。古代に思いを寄せ疑問を感じている自分を、心の侵入者は妨害するどころか、強く感心を持つように仕向けている、そんな意思を感じたのだ。やはりあの不思議な夢も、これから起きる異変の前振りか予備知識的なもののように考えられた。

それを手掛かりに答えは自分で探せという意味なのであろうか、そうだとすれば考古学ファンの明日美にとって願ってもない好機である。自分にとって都合のいい解釈ではあるにせよ、それをする時が今なのだと感じて、意気揚々と見分を続けていく。

瞳が輝いていた。今や、考古学の知識は学芸員なみと自負するほどの明日美の目には、すでに葺石を確認した時点でこの遺跡が何なのかを理解し、つい独り言がまた口から漏れてしまう。

「どう見てもこれは古墳だよね。なんでここにあるわけ?」

学術書からの知識と、景観から判断するところ丸く土を盛った墳墓、円墳に見えたのだ。その上に埴輪の破片でも見つかれば決定的になるにもかかわらず、今は探す道具も暇もない、岩手県遺跡地図にも載ってはいないだろう。

古墳であれば被葬者は何者で、その者が自分を必要としているのだろうかと、謎が深まる。されどその謎を紐解いていくのもまた楽しい。とりあえずは心の侵入者が何かしらの変化を起こすまでの間、このまま考古学の世界に浸っているとしよう。答えが見つかるかもしれない。

ともあれここは古来畿内勢力(ヤマト政権)の及ばない、蝦夷と呼ばれた人々の地であり、埋葬の形態が違う。仮に被葬者が個人であれば、このような大規模な古墳はこの地に1基確認されているだけであり、その古墳はここから直線距離で20キロメートルほど離れた、奥州市の角塚(つのづか)古墳だけであった。

その規模は全長45メートル前後で、5世紀中頃に造られたと考えられ、日本最北に位置する前方後円墳であるとともに、前方後円墳が点在する地域から、北へおおよそ70キロメートルほどの距離をあけてただ一基だけという独立した存在であり、周辺からはこれに関連した古墳の存在は確認されておらず、その特異性から国の史跡に指定されているのだ。